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2013.12.03

民科法律部会理事会が特定秘密保護法案の廃案を求める声明

12月3日民主主義科学者協会法律部会は、「民主主義法学の発展をはかることを目的とする」学会であることを、規約において明らかにしていることを確認のうえで、学術団体としてのあり方と特定の法案に関する見解の表明との関係について慎重に審議して、理事会として特定秘密保護法案の著しい反民主主義的性格が、学会活動の前提である学問の自由そのものを危うくするものであるという危機感から、同法案の廃案を求める声明を発表しました。

特定秘密保護法案の廃案を求める声明

 特定秘密保護法案の国会審議が、現在強引に進められている。法案は、憲法の基本原則である国民主権、平和主義に反するとともに、基本的人権を侵害し、学問の自由に対しても重大な危機をもたらすものであり、直ちに廃案とされるべきである。
 1 法案は、市民の知る権利とそれに奉仕する報道の自由に対して重大な制約をもたらす。法案において、「特定秘密」の概念は、それを基礎づける「安全保障」概念とともに、曖昧、不明確であり、その範囲は防衛、外交、特定有害活動、テロ防止にわたる広範囲に及ぶ。それゆえ、処罰範囲が曖昧、不明確かつ広汎であって、罪刑法定主義からみて重大な疑義がある。しかも、処罰範囲は漏えいとともに取得にも及ぶだけでなく、過失漏えい、共謀、独立教唆、扇動を含んでおり、きわめて広汎である。これらが相俟って、知る権利と報道の自由に対して重大な脅威が生じる。さらに、特定秘密を取り扱う公務員その他は、「適性評価」によって著しいプライバシー侵害にさらされる。
 このことは、同時に学問の自由が深刻な危機に瀕することも意味している。あらゆる研究の基礎にあるのは、自由な情報の取得であり、そのための情報の公開、開示と社会的流通である。「特定秘密」の「保護」の名のもとに、安全保障その他の研究分野に関わる重要な情報が長期にわたり秘匿されることとなり、それに基づく研究が不可能となる。厳重かつ広範囲の処罰の威嚇のもと、学問の自由は深刻な打撃を被ることになろう。
 2 法案は国民主権を形骸化させる。国民主権に基づく民主主義は、主権者が政府の活動に関する情報を広く取得し、それを監視、批判し、それをめぐり自由な討論をすることができてこそ、具体化、実質化しうる。ことに平和憲法のもと、安全保障に関する防衛・外交・公安活動は、本来市民の厳重な統制のもとに置かれるべきものである。しかし、広範囲にわたる「特定秘密」の「保護」は、それらの活動に関する情報を市民から覆い隠し、市民の監視と批判、市民のあいだの自由な討論の機会を奪うことになる。
 民主主義との矛盾は、この法案においては、行政による「特定秘密」の指定に対して、主権者の信託を受けた国権の最高機関としての国会のチェック機能がまったく不十分であること、国会議員の調査活動や議院の国政調査権が重大な制約を受けることになることにも示されている。政府は法案策定をまさに秘密裏に進めたうえで、パブリック・コメント、公聴会における批判的意見や慎重論、専門家の批判的見解、さらには市民の広汎かつ強力な反対などをすべて無視した。さらに国会審議をつうじて法案の問題点がますます明らかになっているにもかかわらず、採決を強行しようとしている。このことは、民主主義の本旨に悖るというべきであるが、法案自体の反民主主義的性格ともまさに符合するものである。
 3 法案は、国家安全保障会議(NSC)の設置とともに、憲法解釈による集団的自衛権行使の容認、憲法9条の明文改憲、国防軍の創設を目指す軍事国家への改造計画の重要な一端を担っている。この点において、法案は平和主義に反している。また、平和憲法の理念からすれば、防衛に関する情報を「秘密」として「保護」することには、最大限の慎重さが求められる。しかし、法案は、厳罰をもって、広範囲にわたる防衛「秘密」の「保護」を求めている。さらに、防衛のみならず、外交、特定有害行為、テロ防止にわたる情報が、広く、安全保障に関する「特定秘密」とされる。このことによって、軍事国家への改造過程自体が市民の目から覆い隠され、その監視、批判と自由な討論から免れることになる。法案における平和主義との矛盾は深刻である。
 以上のような法案の問題性は、部分的修正によっては解消不可能である。それゆえ、法案は直ちに廃案とされるべきである。そうすることによって、基本的人権の尊重、国民主権、平和主義という憲法の基本原則に適うことになろう。
 民主主義科学者協会法律部会は、「民主主義法学の発展をはかることを目的とする」学会であることを、規約において明らかにしている。理事会は、学術団体としてのあり方と特定の法案に関する見解の表明との関係について、慎重に審議した。そのうえで、法案の著しい反民主主義的性格が、学会活動の前提である学問の自由そのものを危うくするものであるという危機感から、本声明を発表することとした。なお、本学会は防衛・外交秘密保護法制化の動きに関して従来から学会活動をつうじて研究を重ねており、本年度の学術総会おいても11月30日に開かれたミニ・シンポジウムのなかで法案の問題性を解明したところである。このような研究実績をふまえて本声明を発表するものであることを付言しておきたい。

2013年12月3日

民主主義科学者協会法律部会理事会