季刊 自治と分権 90号
90号は、特集が「公共を住民の手に取り戻す ―自治体の役割と責任」。
世界では民営化した公共サービスを公営に戻す動きが広がっています。日本においても、民営化は各地で公共サービスの劣化を引き起こし、検証と見直しが求められています。昨年(2022年)、東京都杉並区では、ヨーロッパで民営化問題を調査研究した経歴を持ち、「公共の再生」を公約にかかげた岸本聡子さんが区長に当選しました。民営化で失われた公共を住民の手に取り戻し、憲法に基づき「住民福祉の増進」を図る自治体の役割を発揮するために、政策と運動の課題、展望について、岸本区長を囲んで座談会で語り合いました。
特集論文では、平岡和久氏(立命館大学教授)に「水道事業の広域化・一体化を検証する -奈良県の県域水道一体化計画を事例に」、坂田俊之氏(大阪自治労連副委員長)に「維新政治は何をやってきたか -大阪の実態にみる」を、また五十嵐仁氏(法政大学名誉教授)に「改憲・大軍拡を阻止し9条を守り活かすための課題」、庄村勇人氏(名城大学教授)に「個人情報保護条例改正の動き -デジタル改革関連法改正を受けて」を執筆いただきました。
随想は榊原秀訓氏(南山大学教授)。「地方議会の自己否定とAI民主主義」で、地方議会の代表性やその存在意義を示す活動に消極的な自己否定的な議会に対して、「データの変換」を民主主義とする、無意識民主主義(いわばAI民主主義)という主張があることを紹介。この主張は、決定はAIが行うことから、選挙や議員を不要とする最新の議会不要論であり、定数・区割りの議論や議会の活動を無意味にし、さらに、首長や住民参加の価値も認めない、実質的には民主主義不要論とすら考えられる。今年は一斉地方選挙の年であり、一斉地方選挙は選挙結果と同時に、地方議会や民主主義のあり方を考える機会でもあると。
首長インタビューは、千葉県多古町・平山富子町長。教員の出身で、「人と話をしたり、コミュニケーションをとるのが好き」という平山町長。さまざまな世代と対話、意見交換をして、女性も、男性も、障がいのある人も、若者からお年寄りまで、誰もが活躍できる住みよい町をめざしています。「待機児童」「給食費」「大学生までの医療費」の3つをゼロにする施策は全国でも注目されています。成田国際空港に隣接する町として、これからの子育て・高齢者支援、農業や地元特産物を活かしたまちづくりへの抱負、自治体職員への期待を語って頂きました。
「季刊 自治と分権」90号の内容は下記のとおりです。
1) 随想 地方議会の自己否定とAI民主主義
榊原秀訓(南山大学教授)
2) 首長インタビュー 千葉県多古町長 平山富子さん
インタビュアー 河合克義(明治学院大学名誉教授/編集委員)
3) 特集 「公共を住民の手に取り戻す -自治体の役割と責任」
●座談会
「公共を住民の手に取り戻す -いまこそ自治体の役割発揮を-」
岸本聡子(東京都杉並区長)、尾林芳匡(弁護士)、長坂圭造(自治労連副中央執行委員長)、
晴山一穂(福島大学・専修大学名誉教授)
●特集論文
「水道事業の広域化・一体化を検証する -奈良県の県域水道一体化計画を事例に-」
平岡和久(立命館大学教授)
「維新政治は何をやってきたか -大阪の実態にみる」
坂田俊之(大阪自治労連副執行委員長)
4) 論文
「改憲・大軍拡を阻止し9条を守り活かすための課題」
五十嵐仁(法政大学名誉教授)
「個人情報保護条例改正の動き -デジタル改革関連法改正を受けて」
庄村勇人(名城大学教授)
5) 現場レポート
「会計年度任用職員の処遇改善へ -自治労連「誇りと怒りの3Tアクション」の取り組み」
嶋林弘一(自治労連中央執行委員・賃金権利局長)
6) 弁護団レポート
「横浜市交通局の懲戒処分事件 -懲戒処分の行政裁量を規制していく闘い」
井上啓(弁護士)
7) 自治の歴史と文化 第11回
「新潟みなとの打ちこわし パリ・コミューンに先立つこと100年」
小林朗(新潟市立小合中学校教諭)
8) ブックレビュー
9) 自治体日誌