トピックス 生活保護基準引き下げ 1万人審査請求 深刻な実態を訴える
生活保護基準引き下げ 1万人審査請求 深刻な実態を訴える
生活保護対策全国会議が7月27日東京ウイメンズプラザで集会、8月から開始される生活保護基準切り下げに対して1万人規模の審査請求を行うことを呼びかけました。
集会で行われた花園大学の吉永純教授の講演「生活保護基準切り下げの問題点」は次のような内容です。
「生活保護基準引き下げの問題点(注1)」 吉永純・花園大学教授 講演要旨
1,今回の生活保護「改革」のルーツは2012年8月の社会保障制度改革基本法にあり、受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障をめざすとして、社会保障財政を抑制するために、家族相互、国民相互の助け合いに社会保障を変質することをめざしています。
その社会保障制度「改革」のターゲットにされたのが今回の生活保護制度「改革」で、突破口にされたものです。
2012年8月の国会最終盤で消費税増税法案と社会保障の関係が争点になり、自公民合意により社会保障制度改革基本法が成立しました。その附則第2条で「生活保護の生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化、保護を受けている世帯に属する者の就労の促進」「正当な理由なく就労しない場合に厳格に対処する措置を検討すること」などと生活保護制度改悪をすすめるとされました。
この法律に基づいて設置された社会保障制度改革国民会議では、介護保険や年金など生活保護に続いて全面的な見直しの方向を進めています。
2,生活保護「改革」は、生活保護利用者のいっそうの生活苦をもたらすだけではなく、ワーキングプアの若い層や、低年金高齢者に「利用しにくい」ものに遠ざけ、どんな悪条件でも働かざるを得ないブラック企業がいっそうはびこることになるものです。
3,生活保護基準は13年8月、14年4月、15年4月と連続3回の引き下げが行われ、中高生のいる4人世帯や母子世帯などは10%もの引き下げになります。これだけではなく、連動して就学援助、最低賃金、年金などが引き下げられる可能性があります。課税最低限が引き上げられ、新たなに課税、増税となり、高額医療費、保育料などに負担増になり大きな影響がでることになります。
4,生活保護基準のあり方を審議してきた厚労省の社会保障審議会生活保護基準部会では、生活保護利用世帯と低所得者(第一・十分位層:低所得から10%)の消費支出の比較を行い、①生活保護基準検証分90億円分と②物価下落分580億円、合計670億円分の切り下げが行われます。
保護基準以下層で生活保護を利用出来ている人が2~3割にすぎず、低所得でも生活保護を受けないで貧困状態にあるという実態をふまえていません。また、物価の問題は基準部会ではまったく議論されていないものなのに、厚労省が基準引き下げをさらに拡大したものでです。
しかも物価問題では、厚労省が総務省消費者物価指数(CPI)を利用しながらも、独自に生活扶助相当CPIなるものを勝手に作り出して、下落幅の大きい電化製品などの影響が実態以上に出ているなど問題のある手法まで使ったことは許されません。(注2)
生活保護受給者は食料費などの支出が多く、厚労省がデフレで生活扶助CPIが平成20年に比較して平成23年に4,78%も下がっているという根拠にしていますが、現実にはテレビやパソコン、カメラなどを購入するゆとりはない。この点については、同集会で行われた生活保護利用者のリレートークでも実態が多く訴えられました。
生活保護基準引き下げにどう立ち向かうのか
集会の最後に、尾藤廣喜弁護士が生活保護切り下げに伴う通知が利用者にくるのを利用して、これに対する審査請求を1万人規模で取り組むこと。全国にもれなく身近な相談機関を設置充実させること。最低賃金引き上げ運動、年金引き上げ運動、就学援助後退を許さない運動。非正規労働規制の運動などと連帯して大きな運動にしていくことを呼びかけました。
注1,詳しくは季刊自治と分権51号「生活保護基準引き下げと制度引き締めー社会保障制度解体の一里塚」吉永純・花園大学教授
注2、生活扶助CPI(物価指数)の計算根拠の疑問について、7月27日の同集会で中日新聞記者の白井康彦さんが報告を行いました。
(自治労連 専門委員 今西清)