地方財政編
Q1 地方財政はどの範囲を言うのですか?
A1 地方財政は狭義には地方公共団体の財政を指し、都道府県・市区町村とともに一部事務組合、広域連合などの財政を含みます。地方財政の規模は都道府県・市区町村などの財政規模を集計したものとして表されます。地方財政は大きく普通会計(一般会計+α)と公営事業会計(水道、地下鉄などの公営企業および介護保険、国民健康保険などの保険会計等)に区分されます。普通会計について2013年度決算ベースで国と地方間の財源移転後の数値でみると、国の歳出が69.1兆円であるのに対して地方の歳出は96.6兆円となっています。歳出面からみれば地方財政の規模は国を大きく上回っています。
地方公営事業について主なものをみると、まず地方公営企業は2013年度末で8703事業、決算規模は約16.9兆円です。国民健康保険事業会計の歳入決算額が14.4兆円、後期高齢者医療広域連合の歳入決算額が13.9兆円、介護保険事業会計(保険事業勘定)の歳入決算額が9.2兆円となっています。
地方財政は、広義には自治体が出資する公社・第三セクターや、地方独立行政法人、指定管理者、PFIなどを含みます。総務省によれば、2013年度末で第三セクター(自治体出資法人)の数は6730法人、地方三公社(地方道路公社、地方住宅供給公社、土地開発公社)は904法人、地方独立行政法人(地方公共団体が設立する法人であり、業績主義による人事管理、弾力的な財務運営が可能とされる)は111法人となっています。これらの第三セクター等に対する自治体の出資総額は約4兆6000億円にのぼります。
さらに、地方公共団体は公の施設の指定管理者制度を導入しており、その数は総務省によれば2012年4月1日現在で7万3476施設にのぼります。また、PFI事業(民間資金活用による公共施設の整備・運営)の実績は2013年度末で440件になります。
地方財政の及ぶ範囲をもっと広くみれば、公契約や補助金等をつうじた民間事業者、民間団体等との関係も重要です。
Q2 地方財政と国家財政との関係はどうなっていますか?
A2 日本における中央政府、都道府県、市区町村の関係は「融合型」自治と呼ばれるように、担当する行政領域が重なっており、自治体の事務に国が広範に関与する仕組みになっています。法定受託事務だけでなく、自治事務に対しても国の関与があります。さらに、補助金(国庫支出金)や地方債をつうじた国による統制があります。たとえば自治体が公共施設を整備しようとした場合、自主財源である地方税だけでまかなうことができないため、国の補助金と地方債を組み合わせて財源を確保しようとします。その場合、各府省の補助要綱と審査等によって統制を受けることになります。地方債については原則として国との事前協議が求められます。
地方財政は国の予算や地方財政計画によって制約を受けます。毎年度の政府予算案とともに地方財政計画(地方財政全体の歳入・歳出を見積もり)および地方債計画が策定されます。そこで、毎年度の地方全体として必要な歳出総額が見積もられ、さらに必要な一般財源総額と地方税収が見積もられ、地方交付税総額が確定します。交付税財源が不足する場合、地方財政対策(一般会計からの加算、臨時財政対策債を含む)により財源が確保されます。そのうえで、個別の都道府県、市町村に対して地方交付税が交付され、標準的な行政を行うための一般財源が保障されています。
一般財源保障の重要性について義務教育費を例にみると、小中学校の教員の給与は都道府県が支出しますが、そのうち3分の1は義務教育費国庫負担金でまかなわれます。残りの3分の2は各都道府県の一般財源でまかなわれますが、自主財源である地方税だけでまかなえない場合、教員の給与を支払うことができなくなります。そこで地方交付税が地方税を補完して必要な一般財源を保障することが必要とされるのです。
このように日本における国と地方の財政関係は「融合型」自治のもとで中央集権的性格が強いのですが、それは同時に多様な規模と能力をもつ地方公共団体に対してナショナルスタンダードの行政水準を保障するための一般財源保障システムを特徴としています。一般財源保障システムを維持・改良しながら自治体の財政権を拡充していくことが課題であり、特に住民が財政をコントロールし、参加していく住民自治の確立が求められます。
Q3 戦後の地方財政制度はどう変遷してきたのでしょうか?
A3 戦後のシャウプ勧告は地方自治を支える財政制度の確立を重視しました。シャウプ勧告の一部は実施に移され、市町村民税および固定資産税の導入、地方財政平衡交付金(後に地方交付税制度に改変)の創設などが行われました。しかし、補助金の整理は不十分なものとなり、機関委任事務(国の下請け事務)が温存されました。
1960年代以降、政府は高度経済成長政策を推進するための地域開発政策を進め、集権的な財政手段を利用して自治体を地域開発に誘導しました。地域開発政策では産業関連の公共施設が優先され、生活関連の公共施設や福祉が後回しにされるとともに公害と自然破壊を惹き起こしました。1960年代後半以降、住民運動を背景とした革新自治体が各地で成立し、福祉や公害防止・環境保全を重視した政策を進めるとともに、増大する財政需要をまかなうために法人関係税の増税などの財政自主権を発揮しました。
1970年代、二度にわたる石油危機と不況による財政危機の進行のなかで、革新自治体が後退し、都市経営を掲げる保守自治体が台頭しました。1980年代後半にはバブル経済が形成され、民活法やリゾート法が導入され、多くの自治体が第三セクター等を設立して開発に巻き込まれました。1990年代に入るとバブル経済が崩壊し、今度は国の経済対策に地方が動員され、公共事業を拡大しました。その結果、地方債務が増大し、自治体財政は悪化しました。
2000年に施行された地方分権一括法は機関委任事務の廃止と条例制定権の拡大など地方自治拡充の面での重要な変化がみられました。しかし、財政面での改革は地方債協議制度などを除いて先送りされました。その後、財政改革は「三位一体改革」(税源移譲、国庫補助負担金、地方交付税を一体的に改革)として進められましたが、交付税抑制による地方財源縮小の側面が強いものとなりました。同時に市町村合併が推進され、市町村数は4割以上減少しました。
2000年代には地方行革が推進されるとともに、夕張ショックを背景に自治体財政健全化法が導入され、自治体財政への統制が強まりました。また、民営化、民間委託、PFI、地方独立行政法人、指定管理者制度などを活用した自治体の「民間化」が推進されました。
その後、民主党政権を経て、第二次安倍政権下でアベノミクスや「地方創生」が打ち出され、財政手段を用いて自治体を政策誘導・統制する傾向が強まっています。
Q4 地方公共団体の主な収入と支出はどうなっていますか?
A4 地方公共団体の収入を歳入、支出を歳出と言います。主な歳入は、①地方税、②地方交付税、③国庫支出金(国庫補助負担金)、④地方債であり、四大財源と言われます。
地方税は自治体が自ら賦課・徴収できる主な自主財源です。地方交付税は地方税収に国の財政資金を付加することによって、地方団体の財源を保証し(財源保障機能)、地方団体間の財政力格差を縮小する(財政調整機能)ことを目的としています。国庫支出金(国庫補助負担金)は、国が使途を特定した地方公共団体への財政移転を指します。地方債は、地方自治体が借り入れる借金のうち、返済が2年度以上にわたる長期債務のことを指します。
また、国が徴収を代行する地方譲与税は地方税に準ずる歳入として位置付けられます。その他、使用料、手数料、分担金・負担金、繰入金、繰越金、財産収入、寄付金などがあります。
地方公共団体の歳入のうち使途を特定しない財源を一般財源(地方税、地方交付税など)、特定の使途に限定される財源を特定財源(国庫支出金、地方債など)と言います。また、地方公共団体の財源のうち国から移転されるものを移転財源と言います。主な移転財源は地方交付税と国庫支出金です。
歳出については、目的別分類と性質別分類があります。目的別歳出は、議会費、総務費、民生費、衛生費、労働費、農林水産業費、商工費、土木費、消防費、教育費、災害復旧費、公債費などに分類されています。
性質別経費とは経費の経済的性質や効果をみるための分類であり、義務的経費、投資的経費、その他の経費に大別されます。そのうち義務的経費には人件費、扶助費、公債費があります。投資的経費には普通建設事業費、災害復旧事業費、失業対策費があります。その他の経費として、物件費、維持補修費、補助費等、積立金、繰出金、投資・出資・貸付金などがあります。
自治体の経費は次の4つに分類されます。①社会の統治のための経費(戸籍や住民票の管理、徴税、警察など)、②生産のための共同的諸条件を整備するための経費(道路、港湾、交通など)、③生活を支える共同的諸条件を整備するための経費(教育、福祉、医療、上下水道など)、④人間と自然の物質代謝を調整する業務のための経費(治山・治水、環境保護、廃棄物処理など)(川瀬光義「地方自治体の役割と経費」、重森・植田編『Basic 地方財政論』有斐閣2013年、43頁)。
Q5 「地方税」にはどのような税目があり、税収の配分はどうなっていますか?
A5 私たちが負担する租税は、課税主体によって国税と地方税に、さらに地方税は道府県税と市町村税に分類されます。なお東京23区においては、固定資産税の課税主体が東京都であることなど、他の自治体とは税源配分が異なっています。
地方税の大半は、地方税法に自治体が課税できると明記されている法定税です。それ以外に、法定外税として自治体が議会の同意を得て新税を設けることができます。
下表は、国税と地方税の税収内訳を示したものです。2015年度決算額で国と地方合わせて99.1兆円の税収総額のうち、国税が60.0兆円(60.5%)と6割ほどをしめ、道府県税が18.0兆円(18.2%)、市町村税が21.1兆円(21.3%)となっています。なおこのうち、法定外税は517億円にすぎません。
住民税(道府県民税、道府県民税利子割、市町村民税)、事業税、固定資産税を三大地方税と称し、この3税で地方税収入の8割以上をしめています。このうち住民税と事業税が所得課税です。道府県税をみますと、法人事業税、個人道府県民税、法人道府県民税など所得課税が半分以上をしめ、地方消費税、自動車税、軽油引取税などの消費課税が4割以上をしめています。他方、市町村税をみますと、個人市町村民税および法人市町村民税の所得課税が4割以上、固定資産税、都市計画税などの資産課税が半分近くをしめています。
つまり、道府県税は所得課税と消費課税、市町村税は所得課税と資産課税を主とした税収で構成されています。
こうした地方税制の骨格が形成された契機は、1949年の『シャウプ使節団日本税制報告書』において、市町村を中心とした地方税源の拡充がめざされたことです。その一環として道府県税は流通税と消費税を、市町村税は所得税と不動産保有税を中心とした地方税構造とするように提起されました。この提起を受けた1950年の地方税制改革によって市町村民税が創設されました。その後、1954年の税制改革では、道府県税の基幹税目と位置づけられていた付加価値を課税標準とする新事業税が日の目をみることなく廃止されたため、市町村民税の一部を移譲して道府県民税が創設され、現在に至っています。地方交付税の主な財源が所得税と法人税であったことも併せて考えると、戦後の地方財政は所得課税によって大きく支えられていたといえます。
先に述べたように、税収総額の約4割が地方税でしめられています。これは、発達した資本主義国で共和制の国家形態を採っているイギリス、フランス、韓国などと比べるとかなり高く、スウェーデンと同レベルです。地方税収の比重が相対的に高い日本とスウェーデンに共通する特徴は、所得課税が基幹的税目となっていることです。戦後改革において基幹的な地方税源として所得課税が導入されたことの意義は、どんなに強調しても強調しすぎることはありません。
出所)http://www.soumu.go.jp/main_content/000493530.pdf
Q6 地方税なのにどこの自治体も同じように課税しているのはなぜですか?
A6 付加税が中心だった戦前と異なり、戦後の地方税が独立税となったのは大きな進歩といえます。しかしながら自治体の課税自主権はなお大きく制限されています。
第1に、主な地方税の内容は地方税法、およびその施行令、施行細則、通達などによって細かく規定されています。それ故に、全国どこもほぼ同じ内容の地方税となっています。
第2に、主要な税目には標準税率と制限税率が設けられ、税率の決定における自治体の裁量はこの2種類の税率の範囲内に限られています。地方税法によると、標準税率とは、「通常よるべき税率」ですが、「その財政上の特別の必要があると認める場合においては、これによることを要しない税率」でもあるので、決してそれに縛られるものではありません。しかし地方財政法において普通税を標準税率未満の税率で課税している自治体には起債を制限する旨が規定されていたため、事実上下限税率となっていました。2000年の地方分権一括法によって地方債の許可制度が廃止され協議制に移行することとなりましたが、この起債制限措置は地方債についての関与の特例として、標準税率未満の自治体における建設地方債の発行について総務大臣の許可制とするかたちで残されました。なお、個人市町村民税の制限税率は1998年度から、固定資産税のそれは2004年度から廃止されました。
標準税率を上回る税率で課税する超過課税の対象となっている税目は、主として法人関係税です。個人住民税については最近、個人道府県民税の均等割の超過課税をする自治体が増加し33県でおこなわれています。しかし所得割の超過課税をおこなっているのは、神奈川県、北海道夕張市、兵庫県豊岡市だけです。固定資産税の超過課税は156市町村でおこなっていますが、ほとんどが人口の少ない自治体です。
地方税の税率は、本来なら歳出の必要性を勘案して議会が決めることです。しかし、日本の地方議会においてこうした問題が議論されていることを、筆者は寡聞にして知りません。元鳥取県知事の片山善博氏によると「ほとんどの自治体において専決処分をしている」とのことです(『市民社会と地方自治』慶應義塾大学出版会、2007年)。さらに地方自治法にもとづく住民の直接請求の対象から、地方税や使用料・手数料が除外されているために、私たちは、税のあり方に異議を唱える権利も保障されていません。
Q7 住民税の特徴と問題点を教えてください。
A7 住民税は、個人が負担するものと法人が負担するものがあり、都道府県・市町村いずれもが課税します。ここでは、私たちが支払い義務を負う個人住民税を取り上げます。
個人住民税には均等割と所得割があります。均等割の標準税率(年額)は都道府県が1500円、市町村が3500円です。なおこれには、復興財源確保のため都道府県500円、市町村500円、計1000円の引き上げ分が含まれています(2014年度から23年度まで)。
所得割は、国税所得税とまったく同じ方式で課税されます。給与所得者の場合ですと、年間収入から給与所得控除(自営業者などの必要経費に該当)を差し引いた金額から、さらに各種の人的控除を差し引きます。独身者なら基礎控除と社会保険料控除があります。国税所得税とは次の点で異なります。
第1に、控除額が国税より少ないことです。例えば、基礎控除が国税が38万円であるのに対し、住民税は33万円です。その結果、所得税は非課税であっても住民税は課税となる場合があります。
第2に、住民税は標準税率が都道府県4%、市町村6%の比例税率です。これに対し国税は、最低5%(課税所得195万円以下)から最高45%(課税所得4000万円超)、7段階の累進課税です。住民税もかつては累進課税でしたが、2007年に国から地方に3兆円の税源移譲された際に、現行税率となりました。
第3に、所得税は当年の収入にもとづいて課税するのに対し、住民税は前年の所得にもとづいて課税することです。所得税の場合は、当年の収入にもとづいて当年中に課税します。給与所得者の場合は毎月源泉徴収され、年末調整で税額が確定します。自営業者の方などは税務署に申告します。これに対し住民税所得割は、すでに確定している前年の所得に関する情報を市町村が収集して税額を計算し、その税額を支払い義務者に通知して徴収します。給与所得者の場合、前年の所得にもとづいて決定された税額が、当年の6月から翌年の5月にかけて12分の1ずつ給与から差し引かれます。これは、税を集める側にはたいへん都合のよい制度です。他方、支払う私たちからすると、前年と比べて収入が大きく減少した場合など支払いに支障を来す恐れがあります。また、私たちが申告という行為を通じて税のあり方を考える機会を奪っているともいえます。
Q8 国庫支出金はどのようなものですか?
A8 国庫支出金とはいわゆる「補助金」です。国から地方自治体に移転される財源という点では、地方交付税と同じ性格をもっています。しかし、地方交付税は使途が自由な一般財源であるのに対して、国庫支出金は使い道が決められた特定財源です。国庫支出金が交付される事業は補助事業と呼ばれます。
国庫支出金には次の3つがあります。
第1は、国庫負担金です。これは、自治体が法令に基づいて実施しなければならない事業のうちで、国と地方の両方にメリットがあるものに対して、国がその経費の一部を負担することが義務づけられているものです。この事業にともなう自治体の負担分は基準財政需要額に算入されることにより、地方交付税措置を受けることになります。対象分野としては、義務教育、生活保護、障害者福祉、児童福祉、国民健康保険、介護保険などが典型的なものです。
第2は、国庫補助金と呼ばれるものです。これは、自治体に対して国が特定の施策を奨励したり、財政支援が必要であると判断される場合に交付されるものです。そのため、国庫補助金は個別の法律に根拠をもたず、国の財政誘導が強くはたらきます。公共事業の補助金にはこれが多く用いられています。
第3は、国庫委託金です。これは国の法定受託事務を自治体が実施する場合に、その費用を国が全額負担するものです。例えば、国政選挙、国の統計調査、外国人登録などがこの対象となります。
国庫支出金の役割としては、大きく分けて①ナショナル・ミニマムの確保、②地方財政の統制、の2つがあります。また、経済理論では国庫支出金の機能として、自治体の施策のもつ漏出効果(スピルオーバー)の補てんという点が挙げられることがあります。これは、ある自治体の事業が他の自治体にも及ぶ場合に、事業を実施する自治体に国庫支出金を交付することで、その事業規模を拡充することが全体にとってプラスになるというものです。大都市における広域的な行政サービスなどがこのようなケースに当てはまります。
Q9 国庫支出金にはどのような問題がありますか?
A9 国庫支出金の最大の問題点は、国が財政を通じて自治体の施策に関与することで、自治体の独自性や自主性が損なわれてしまうことです。これは主に国の裁量が強くはたらく国庫補助金においてみられる現象です。これを厳密に理解するために、次の算式をご覧ください。
事業費=事業対象×単価
国庫支出金=事業費×補助率
自治体負担=事業費-国庫支出金
自治体の実際の財政負担がどのぐらいあるのかは自治体負担(裏負担と呼ばれます)によってあらわされます。これは事業費から国庫支出金を差し引いたものになり、国庫支出金が多い事業ほど自治体にとっては魅力的です。国庫支出金の多寡は補助率に依存していますが、補助率は1/2を基本として事業に応じて増減されています。補助対象外の事業は補助率ゼロと解釈することも可能です。
国は自治体に実施させたいと考える事業に対しては国庫支出金を多く配分します。例えば、自治体が公共事業を行う場合には国庫支出金が交付されますが、それによってつくられたインフラやハコモノの維持管理・補修に対してはほとんど支出されません。そのため、自治体はそれらの建設には熱心になる一方で、その維持管理・補修については十分な対応をとらない傾向があります。自治体は国庫支出金が配分されない単独事業としての福祉サービスを多く実施していますが、財政負担の面からはそれらよりも補助事業としての公共事業を選びがちになります。自治体が国体や万博などのイベントを誘致したがる理由も、それによって国が補助事業をふんだんに措置することがあるからです。
その他の問題点としては、前記の算式で事業対象が限定されすぎていたり、単価が低く設定されていたりする場合に、国が事業費を少なく見積もることがあります。これによって実際の自治体負担は理論値よりも増えてしまいます。これは超過負担と呼ばれる現象です。また、国庫支出金の基準が実際に必要な事業内容に比べて過大な場合には、無駄な財政支出が国と自治体の双方に発生するという問題も起こります。
国庫支出金は国の各府省の所管です。それが別々に算定されることによって、同種の事業が重複したり、地域づくり全体としての整合がとれないといった問題も生まれます。
Q10 国庫支出金の「交付金化」とは何ですか?
A10 国庫支出金は使途が決められているために、自治体のまちづくりの現場では財政運営の面で非効率な状況が生まれます。1つには、国庫支出金は原則として事業間での流用が認められていないため、まちづくりの進捗にあわせて必要性の高い事業に財源を振り向けるといった柔軟な運用ができません。例えば、住宅団地の開発において、土地造成と道路整備が進む一方で、上下水道整備が進まないことなどが起こります。また、国の各省で同種の補助事業が所管されているために、同一の自治体において同じような事業が実施されることもあります。国交省所管の道路と農水省所管の農道が並行して整備されることなどがその典型です。
このような問題に対して、国は国庫支出金の使途の限定範囲を緩やかにすることで対処してきました。これらは「一括交付金」と呼ばれています。2004年度に創設された「まちづくり交付金」はその嚆矢です。2005年度には、農水省・国交省・環境省の所管する類似事業の補助金を3つのテーマ別(道・汚水処理施設・港)の交付金に分類し、内閣府に一括計上して認定する地域再生基盤強化交付金が創設されました。
まちづくり交付金は国交省の各事業部局が別々に所管していた個別補助金を統合し、都市再生整備計画の全体に対して交付するものであり、年度間・事業間の弾力的運用やソフト事業への活用など自治体の裁量を拡充するものでした。まちづくり交付金は2010年度から社会資本整備総合交付金として大幅に拡大され、現在まで継続しています。その金額は2兆円近くにのぼり、国庫支出金としては生活保護負担金に次いで大きくなっています。
民主党政権は、2011年度に所管府省を超えて一定のテーマを設定し、横断的に事業を選択・実施するための地域自主戦略交付金を創設しました。これは都道府県と政令市に対して実施されましたが、道路延長などに基づく客観的指標による配分が地方交付税との関係を曖昧にするなど、制度的な未熟さがみられました。
地域自主戦略交付金は、自公政権に戻った2013年度に廃止されます。そして、2012年度補正予算から、社会資本整備総合交付金の別枠のかたちで防災・安全交付金が国土強靱化政策の下で設置されました。これらとは別に沖縄振興公共投資交付金が2012年度から特別に設けられています。
防災・安全交付金はすでに1兆円を超える規模になっており、社会資本の老朽化対策へも用いられています。それは公共施設の再編・統廃合を推し進めるための手段としても機能しはじめています。
Q11 最近の国庫支出金の特徴は何ですか?
A11 2014年度決算でみれば、国庫支出金は総額で15.5兆円にのぼっています。このなかで最も多いのは生活保護費負担金2.8兆円(18%)です。その大部分は都市自治体に対するものであり、都市部における人口の高齢化と労働市場の規制緩和によって引き起こされているものです。これに次いで多いのが、社会資本整備総合交付金1.8兆円、普通建設事業支出金1.6兆円であり、国庫支出金の中心が依然として公共事業関連におかれていることがわかります。
安倍政権は国政の中心課題として掲げている地方創生(ローカル・アベノミクス)を推進するために、地方創生関連交付金を矢継ぎ早に創設・配分してきています。2015年度には基礎交付(1400億円)、上乗せ交付(300億円)、地方創生加速化交付金(1000億円)が措置され、2016年度には地方創生推進交付金(1000億円)と地方創生拠点整備交付金(900億円)が創設されました。地方創生推進交付金は2017年度にも同額の措置が行われ、これに対する自治体の裏負担分に対しては別途地方財政措置が講じられています。
地方創生関連交付金の採択結果をみれば、地域間連携、官民協働、日本版CCRC(東京等の高齢者の地方移住促進)、小さな拠点など、地方創生の下で進められている国土・地域改編を進めようとする自治体に対して多く配分されています。また、地方交付税として措置されている「まち・ひと・しごと創生事業費」(1兆円)も取り組みの「必要」から「成果」へと配分額がシフトされはじめており、地方創生関連交付金の裏負担としての性格を一層強めています。
1990年代以降の分権改革は、地方財政制度における自治体の自己決定権を制約する最大の要因を国庫支出金に見いだしてきました。それを受けて、2000年代の「三位一体改革」では、国庫支出金の削減が税源移譲とセットで進められました。また公共事業に関しても、補助事業にかわって、地方債と交付税措置を連動させた単独事業が中心となってきました。しかし、現在は再び国庫支出金が地方財政制度の主軸におかれてきています。
過去20年以上にわたって進められてきた分権改革は、地方創生や国土強靱化政策の下で再び大きな岐路に立っているといえます。
Q12 地方交付税とはどのようなものですか?
A12 経済は地域間で不均等に発展するので、自治体が地域内で生じる税収だけで行政サービスを提供すれば、税収の多い大都市圏と税収の少ない地方圏との間で行政水準に大きな格差が生じます。1人当たり地方税額は最大の東京都36万円と最小の沖縄県8万円では4.5倍もの差があります(2014年度決算、2010年国勢調査人口)。このままでは憲法14条の「法の下の平等」も25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」も保障できません。
地方交付税は、自治体間の財源不均衡を是正し(財政調整機能)、国内のどの自治体でも一定水準の行政サービスを提供できるようにする(財源保障機能)ための制度です。財源保障は地方財政全体に対しても(マクロの財源保障)、個々の自治体に対しても(ミクロの財源保障)行われ、とくに前者のために、毎年度、国の予算とともに地方財政計画(地方団体の歳入歳出総額の見込み額)が作成され、地方交付税の所要額が確保されます。
地方交付税はまた、使途に定めがない財源(一般財源)という特徴をもちますので、憲法92条の「地方自治の本旨」の実現と自治体の独立性の強化に寄与します。
その規模は2016年度地方財政計画で16.7兆円、歳入全体の19.5%を占め、地方税に次ぐ大きな財源です。
もっとも、地方交付税が歳入に占める割合は自治体ごとに異なります。2014年度決算を見ると、都道府県では高知県が最も高くて歳入の39.0%を占めるのに対し、東京都はゼロです。地方交付税は財源の豊かな自治体には交付されないのです(Q&A13参照)。
市町村では、北海道の初山別村が最高で、歳入の68.5%が地方交付税です。最低は佐賀県玄海町の0.04%。玄海町は4基の原子炉を有する九州電力玄海原子力発電所の所在地で、そこから多額の税収が入るからです。
地方交付税のうち普通交付税(Q&A13参照)だけ取り上げれば、普通交付税を受け取っていない団体(交付税不交付団体)は東京都と玄海町など54市町村にすぎず、普通交付税はほとんどの自治体に交付されています。
Q13 地方交付税はどのような仕組みですか?
A13 地方交付税の財源は2015年度から所得税・法人税の33.1%、酒税の50%、消費税の22.3%、地方法人税の全額になりました。
この総額が普通交付税と特別交付税に分けて自治体に配分されます。2016年度では、95%が普通交付税、5%が特別交付税に充てられます。
普通交付税とは、各自治体の一般的な財政需要に対する財源不足額に見合うもので、自治体ごとに「基準財政需要額-基準財政収入額=財源不足額」を計算して、その財源不足額に対して交付されます(ゼロ以下なら財源不足がないので交付されません)。
まず、基準財政需要額とは、自治体の自然的・地理的・社会的諸条件を考慮して合理的かつ妥当な水準として算定された、一般財源(普通税や地方交付税など)で賄われるべき財政需要の額です。行政項目ごとに「単位費用×測定単位×補正係数」を計算し、その合計額が基準財政需要額となります。
ここで行政項目とは、警察費や土木費など、基準財政需要額を算定する費目のことです。測定単位とは、警察費なら警察職員数のように、各項目の財政需要を測る単位のこと。単位費用とは、警察職員1人当たり840万3000円(2016年度、警察職員の給与でなく県警全体の運営費の1人当たり額です)のように1測定単位当たり必要な一般財源額のことで、都道府県なら170万人、市町村なら10万人の標準団体を想定して平均的な費用を計算したものです。しかし、自治体によって人口の規模・密度・増減状況や気象条件、都市化の程度、施設の種別などの違いがあり、単位費用も異なります。自治体の状況に合わせて単位費用を修正するための数値が補正係数です。
以上は基準財政需要額のうち行政項目別に算定する「個別算定経費」ですが、これ以外に人口と面積だけで計算する「包括算定経費」があります。
次に、基準財政収入額とは、自治体の財政力(標準的な一般財源額)を客観的かつ合理的に算定した額で、「標準的な地方税収×算入率+地方譲与税など」で計算します。地方税収は超過課税を実施していても標準税率を用います。算入率の大部分は75%です。全額を算入せず、25%を留保財源として残しているのは、各自治体に税収確保の努力を促すためです。
以上の普通交付税で措置される財政需要以外に、特定地域に限定された財政需要や災害など緊急の財政需要もあります。それらの財源不足額に見合うものが特別交付税です。
Q14 地方交付税にはどのような問題点がありますか?
A14 地方交付税は本来、財政力の弱い自治体に一般財源を保障して「地方自治の本旨」を実現する役割を果たすものです。しかし、国にとっては社会保障関係費・国債費に次ぐ大きな支出項目(2016年度一般会計予算で15.2兆円、歳出全体の15.7%)なので、地方交付税を国の政策に従属させようとします。すなわち、国は地方交付税を自らの政策実現のための手段とする一方、国の財政再建を優先して地方交付税の負担を減らそうとしてきました。それらにより地方交付税は本来のあり方から大きく歪んでいます。
まず、国は地方交付税を国の政策へ自治体を誘導するために活用してきました(地方交付税の補助金化)。
1990年代には、景気対策・内需拡大策として地方単独事業(国の補助金のない自治体の事業)を動員するため、地方交付税が活用されました。例えば、国指定のふるさとづくり事業などとして公共施設を建設すれば、所要額の75%について地方債(地域総合整備事業債)の発行を認め、その元利償還費の30~55%を後年度に地方交付税で措置した上で、所要額の残り25%のうち15%を当年度の地方交付税で措置するという具合です。これにより、多くの自治体がハコモノ造りに駆り出され、後々財政負担に苦しみました。
1990年代末からの市町村合併政策でも、地方交付税が動員されました。合併したら地方交付税が割り増しされる合併補正(補正係数の一種)や合併しても地方交付税が減らない合併算定替の設置。また、合併特例事業用の合併特例債が起債充当率95%で発行が認められ、元利償還費の70%が後年度に地方交付税で措置することとされました。合併に伴うまちづくりのための地域総合整備事業債は起債充当率が90%に高められ、元利償還費の30~55%が後年度に地方交付税で措置することとされました。合併後の財政負担で多くの自治体が苦しんでいます。
2008年のリーマンショック前後からは、基準財政需要額の個別算定経費で通常の行政項目とは別に、ときの内閣の意向を反映して地域再生対策費や地域雇用創出推進費、雇用対策・地域資源活用臨時特例費、雇用対策・地域資源活用推進費、地域経済・雇用対策費、地域の元気づくり推進費、地域の元気創造事業費、人口減少等特別対策費が設置され、毎年のように変更されています。特別交付税を使った行政改革や公共施設の再編促進などと相まって、地方交付税は一般財源という本来の姿から遠ざかっています。
Q15 地方交付税に対する国の負担減らしとはどういうことですか?
A15 地方交付税の財源は地方交付税法で税目と交付税率が定められています。景気低迷などで法定の地方交付税総額が減少して、地方が必要とする財源総額を下回り、財源不足が続く場合、交付税率の引き上げや税目の追加が求められます。それでは国の税収が減るので、高度成長路線破綻後の1975年度から交付税及び譲与税配付金特別会計に借金させて対応してきました。
交付税特会の借金が累積したため、2001年度からは臨時財政対策債(臨財債)という赤字地方債を発行し、その元利償還費を後年度の地方交付税で措置する方式に切り替えました(特会借入は2002年度に停止)。2016年度地方財政計画でも臨財債は3.8兆円計上されています。特会借入も臨財債も借金で、負担の一部を地方に押しつけるものです。
臨財債方式を行う一方、国は地方交付税を「地方自治体が独自に地域の発展に取り組む意欲を弱め」させているなどと言いがかりをつけ(骨太方針2001)、地方交付税の財源保障機能の縮小、不交付団体の増加、地方財政計画の歳出の縮減、地方財政計画と決算額の乖離の是正などを口実に、地方交付税の抑制にとりかかりました。
とくに小泉内閣が2004~06年度に実施した「三位一体改革」は、①国から地方への税源移譲(所得税の一部を個人住民税へ移譲)、②国庫補助負担金の廃止・縮減、③地方交付税・臨時財政対策債の削減を同時に進めるもので、その結果約6.8兆円(=①約3兆円-②約4.7兆円-③約5.1兆円)もの地方財源が失われました。地方税の増収分を割り引いても削減幅は大きく、2004年度は多くの自治体が財政難に陥りました(2004年ショック)。
マクロの財源保障のベースとなる地方財政計画はピークの2001年度89.3兆円から2012年度81.9兆円(通常収支分)へ7.4兆円も減らされました。
2015年度から税源偏在の是正を口実に地方法人税が創設され、地方交付税の原資に加えられましたが、地方法人税は法人住民税の一部を国税にしたもので、東京都などの不交付団体の税収を取り上げるものです。
2016年度から基準財政需要額や基準財政収入額の算定にトップランナー方式が導入されます。これは単位費用や徴税率を標準団体でなく全国上位の団体の数値を用いることで、自治体に民間委託や徴税強化を半ば強要し、地方交付税を縮減しようというもので、標準団体をベースにした地方交付税制度を根底からくつがえすやり方です。
Q16 地方債とはどのようなものですか?
A16 地方債とは、地方自治体が借り入れる資金のうち、返済が一会計年度を超える長期債務をさします。では、なぜ資金を借り入れる、つまり、地方債を発行する必要があるのでしょうか。法律上の根拠をみると、地方財政法第5条で「地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもって、その財源としなければならない」と定める一方で、但し書において地方債を財源とする事業を限定列挙しています。この起債事業とは、交通、ガス、水道など公営企業事業、文教・福祉施設や道路・河川など公共施設の整備事業、災害復旧事業などが該当します。なお、一定の政策目的を達成するために必要であると認められれば、法律ごとに特例措置が設けられています(Q&A18参照)。
地方債の機能として、①財政支出と財政収入の年度間調整、②住民負担の世代間の公平のための調整、③一般財源の補完、④国の経済政策との調整があげられます。
①公共施設の整備事業や災害復旧事業のように、単年度に多額の財源を必要とする場合、起債により所要資金を臨時的に調達することにより、事業を円滑に実施できるとともに、これにかかる財政負担を後年度に平準化するという年度間の調整機能を有しています。
②将来、便益を受けることとなる後世代の住民と現世代の住民の間で負担を分かつことを可能にしています。ただし、施設等の整備について後世代は意思表明の機会をもたないために、その維持管理や将来のあり方をめぐって問題になることがあります。
③地方債の発行年度においては、地方税や地方交付税等の一般財源の不足を補完することができ、財源確保の点で機動性と弾力性を有しています。ただし、後世代による返済の負担が便益の割に大きくなると、やはり問題になることがあります。
④公共施設の整備事業のように、地方自治体が実施主体として多くの役割を担っていることから、国の経済政策(景気対策)との一体性が求められますが、この場合、地方債の発行量の増減によって事業量を調整することが可能です。
Q17 地方債はどのような仕組みですか?
A17 借入先別でみた資金の種類には公的資金(財政融資資金、地方公共団体金融機構資金など)と民間等資金(市場公募資金、銀行等引受資金)があげられます。今では後者の発行額が前者を大きく上回っていますが、市町村(政令指定都市を除く)では長期(償還年限)かつ低利(貸付金利)を特徴とする前者が3分の2を占めます。
財政融資資金(国の会計)は国の政策と密接な関係のある分野を対象としたり、民間資金との役割分担および自治体間の資金調達力の差を踏まえたりして供給されます。地方公共団体金融機構資金は、地方共同の組織である地方公共団体金融機構が金融市場で債券を発行して調達する資金で、自治体の資金需要に積極的に対応しようとするものです。
金融市場で調達する市場公募資金には全国型と住民参加型の2つの形態があげられます。全国型は全国規模で発行するもので、そのなかには複数の地方自治体が共同で発行するものがあります。住民参加型は地方債の個人消化や公募化を通じて、資金調達手段の多様化を図りつつ、住民の行政への参加意識の高揚を目的として、地域住民を主な対象として発行されます。銀行等引受資金は金融機関や各種共済組合等から借り入れます。
地方自治体による地方債の発行は2005年度まで国の許可制でした。そして、地方分権を推進し、自主性をより高める観点から2006年度以降、総務大臣または都道府県知事との事前協議制となり、原則自由となっています。ただし、いくつか注意を要します。
①同意のあった地方債についてのみ、政府資金等公的資金を充当するとともに、その元利償 還金について地方財政計画や地方交付税制度を通じた財源保障が行われます。
②赤字比率や公債費の負担が一定以上となった地方自治体については、許可制度にもとづきます。
③協議が調わない場合でも、地方自治体は起債できますが、財政運営の健全性を確保する見地から、同意のない地方債の場合には議会への報告が義務づけられています。
2012年度から協議制度の一部見直しにより、民間資金にかかる地方債届出制度が導入されました。これにより、財政指標が良好である場合、協議によることなく、事前届け出だけで起債できるようになりました。さらに、2016年度から協議不要基準のハードルが下がっています。
Q18 地方債残高の長期にわたる増加をどのように評価すればよいですか?
A18 地方債残高は1990年度末の67兆円から、99年度末には174兆円と、90年代に急増しました。さらに、その後も増大し、近年、高止まりしており、2016年度末196兆円の見込みです。これに対して、毎年度の歳入歳出の動向(地方財政計画)をみると、2016年度当初で歳入のうち地方債は12.7兆円(14.8%)、歳出のうち公債費等(借入金の返済)は14.4兆円(16.8%)です。地方債残高、歳入歳出動向のいずれも数値だけをみれば、非常に厳しいことは明らかです。
重要なポイントは地方債残高の構造です。その90年代の急増の主な要因が国主導の景気刺激策への動員としての公共施設の整備事業に伴う起債であることは知られていますが、その後、そうした起債は大幅に縮減します。そして、地方交付税の交付のいわばパイプ役を担う交付税及び譲与税配付金特別会計の借り入れが累積したことに伴い、2001年度から臨時財政対策債(臨財債)という赤字地方債が発行され、その元利償還費を後年度の地方交付税で措置する方式に切り替えられました(Q&A15参照)。
今や、臨財債は増加し続け、地方債残高の4分の1を占め、交付税特会の借入金(地方負担分)と合わせると、5分の2を占めます。臨財債のような特別の法的措置にもとづく起債、つまり特例債は過疎地域の指定を受けた市町村が発行できる過疎対策事業債、市町村の合併に伴いとくに必要となる事業に充当できる合併特例債、公共施設等の解体(「公共施設等総合管理計画」にもとづく事業)にかかる地方債など数多くあります。これらは個別に議論する必要がありますが、臨財債の発行、増大は国・自治体間財政関係や一般財源システムを分権・自治の点から大きく見直す必要があることを示しています。
この目的別の地方債残高に対して、借入先別(2014年度末)で地方債残高をみると、銀行等引受資金と市場公募資金が各約3分の1、財政融資資金が約4分の1を占め、市場公募資金が著しく増大する一方で、財政融資資金が減少し続け、また、地方公共団体金融機構資金は一貫して10%を大きく割っています(交付税特会の借入金等を除くデータ)。市場公募債の存在感が急速に高まっていますが、これは金融市場の発展や自由化、地方分権の推進を背景としており、地方債の「市場化」と呼ばれています。さまざまな自治体が存在するなかで、「市場化」の広がりには注意を要します。
Q19 どのように地方債の「市場化」を理解したらよいですか?
A19 都道府県、政令指定都市などの地方債発行実績(2014年度)は表のとおりです。都道府県などでは民間等資金の比重が7割を超えています。また、臨時財政対策債は地方債の発行額のうち大きな比重を占めますが、借入先別で6割が民間等資金からなります。増大する市場公募債の発行条件はかつて総務省が金融機関と一元的に交渉し、全国一律に適用されていましたが、東京都を皮切りに個別条件交渉方式が導入され、2006年度に全面的に導入されています。これに伴い、投資家の運用ニーズに応えようとする取り組みも活発になっています。こうして公共財・サービスの供給のための財源確保における「市場化」が進んでいます。
かつて小泉純一郎政権下で、竹中平蔵総務大臣から地方自治体が自らの責任で自由に地方債を発行する代わりに、協議制を廃止するとともに、新規発行の地方債に対する交付税措置も廃止する制度改革が提起されました。市場を通じて借り手の選別を行い、財政力の弱い地方自治体の起債を抑制する考え方がみられ、資金調達が困難になることや調達コストが高くなることによる団体間の格差拡大を避けることに注意が払われていません。国の関与が強すぎることは重大な問題ですが、その積極的な意義は自治体財政の健全性の確保、資金の需要調整と適正配分、地方債の信用力の補完などの点で評価されるべきです。「市場化」は地方債のあり方にとって非常に重要な論点であると言えます。
【参考文献】
・地方債制度研究会編『地方債のあらまし』各年度版、地方財務協会。
・平嶋彰英編『財務管理・資金管理』2007年、ぎょうせい。
Q20 地方公営企業とは何ですか?
A20 地方自治体は教育、福祉、清掃、道路整備などの一般行政とは別に、公共性の高い水道、交通(バス、地下鉄など)、病院などの事業を企業形態で自ら経営しています。このように地方自治体が所有し経営する企業の総体を地方公営企業と呼んでいます。地方自治体の一般行政が地方税など租税資金をその財源としているのに対して、地方公営企業の経営では利用者から徴収する料金収入をその主要財源とすることになります。
2014年度末において地方公営企業を経営している地方自治体数は1785団体にのぼります。その内訳は47都道府県、20政令指定都市、1718市町村となっています。地方公営企業を経営していない自治体はわずか3団体にしかすぎません。つまり、ほぼすべての自治体が地方公営企業を経営しているのです。
地方公営企業法では、同法が当然に適用される事業として、水道事業、工業用水道事業、軌道事業、自動車運送事業、地方鉄道事業、電気事業、ガス事業、病院事業(財務規定など一部のみ適用)をあげています。この8事業は「法適用企業」と呼ばれ、典型的な地方公営企業とされています。また、地方財政法では、これらの法定事業とは別に、簡易水道事業、港湾整備事業、市場事業、と畜事業、観光施設事業、宅地造成事業、公共下水道事業も地方公営企業として規定しています。ただし、これら以外にも有料道路事業、介護サービス事業など地方公営企業に準じて取り扱われる事例もあります。その意味では地方公営企業の範囲が制限されているわけではありません。
地方公営企業法が当然適用される上記8事業を除いた各事業についても、個々の地方自治体は条例を定めて、地方公営企業法の全部または一部を任意で適用することもできます。つまり地方自治体が経営する公営企業には、地方公営企業法が適用される「法適用企業」と、同法が適用されない「法非適用企業」の2つに分類されることになります。
Q21 地方公営企業の経営規模はどのくらいでしょうか?
A21 全国の地方公営企業の事業数は、2000年度には12574事業ありましたが「平成の市町村合併」の影響によってその後減少し、2014年度末現在では8662事業になります。その内訳は、下水道3638(42.0%)、水道2097(24.2%)、病院639(7.4%)、介護サービス577(6.7%)、宅地造成443(5.1%)、観光施設316(3.6%)、駐車場整備225(2.6%)、市場164(1.9%)、工業用水道154(1.8%)、その他409(4.7%)となります。事業数では上・下水道が地方公営企業全体の66%を占めています。
そして、地方公営企業は地域経済や住民生活を支えるサービス提供にあたって重要な役割を果たしています。各サービスでの地方公営企業のシェア(2014年度)は次のようになっています。水道事業による給水人口1.25億人のうち99.5%、工業用水道事業の年間排水量43億立方メートルの99.9%、交通事業(鉄道)の年間輸送人員236億人の13.6%、交通事業(バス)の年間輸送人員45億人の20.7%、病院事業の病床数156.8万床の12.0%、下水道事業による汚水処理人口1.12億人の91.3%などです。
地方公営企業に従事する職員数は34.2万人(2014年度)になります。その内訳は、病院22.1万人(64.5%)、水道4.6万人(13.7%)、下水道2.7万人(8.1%)、交通2.6万人(7.8%)、介護サービス1.0万人(3.1%)、その他0.9万人(2.9%)であり、病院事業が最も大きな割合を占めています。
地方公営企業の決算規模(2014年度)は18兆7789億円になります。これは地方財政の普通会計決算額98兆5228億円の19%に相当する規模です。公営企業別の内訳をみると、下水道5.6兆円、病院5.0兆円、水道4.2兆円、宅地造成1.4兆円、交通1.3兆円、その他1.2兆円で、上・下水道と病院の3事業で全体の79%を占めています。また同年度の地方公営企業の建設投資額は3兆7419億円で、これは地方財政(普通会計)による普通建設事業費14兆7786億円の25%の規模に相当します。またその内訳は下水道1.5兆円、水道1.1兆円、病院0.5兆円で、この3事業が全体の84%を占めています。
このように地方公営企業は、地域経済と住民生活に不可欠の公共サービスを提供していますが、そのために決算額や職員数でみてもその経営規模は相当に大きくなっているのです。
Q22 地方公営企業はどのような原則で経営されているのでしょうか?
A22 地方公営企業法第3条では、地方公営企業は「常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されねばならない」と規定されています。つまり、地方公営企業はその経営原則として「公共の福祉を増進する」という「公共性」と、「企業の経済性を発揮する」という「経済性」の2つが同時に要請されているのです。
そして、「企業の経済性を発揮する」ためには、地方公営企業の経費は「当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てなければならない」という独立採算制が求められます。ただしこれは、公営企業経費をすべて料金収入によって賄うという完全な独立採算制を求めるわけではありません。地方公営企業経営での「公共性」を実現するために、次のような財政的支援が行われているのです。
第1に、経費の負担区分の前提があります。「当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費」(水道事業での消防用の消火栓経費など)や、「能率的な経営を行っても、なおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費」(病院事業での僻地医療経費など)については、自治体の一般会計等で負担すべきものとされています。
第2に、経費の負担区分の原則で一般会計等で負担されるべき経費は「公営企業繰出金」として毎年度の「地方財政計画」(総務省)に計上されることになっています。つまり、経費負担区分に基づく自治体財政による公営企業繰出金は、地方交付税措置によって国からの財源保障も予定されています。
第3に、地方公営企業の運営費や資本費に関しては国や都道府県からの補助金も提供されています。代表的なものとしては、地下鉄整備事業補助金、地方バス路線維持等補助金、下水道事業費補助金、医療施設等整備補助金(病院事業)などがあります。
第4に、地方公営企業が発行する地方債(企業債)には、政府資金や地方公共団体金融機構による引き受けもなされています。2014年度末現在での地方公営企業債残高は46.8兆円に達していますが、その引き受け内訳は、政府資金48.6%、地方公共団体金融機構29.2%、市場公募10.6%、市中銀行8.4%、その他3.3%であり、80%弱が公的資金によって引き受けられています。
Q23 地方公営企業の経営状況はどうなっているのでしょうか?
A23 地方公営企業(法適用企業)の2014年度の経営状況(経常損益)を表でみると次のようになっています。
第1に、全国の3063事業のうち純損益の黒字事業が1914、赤字事業が1149で、全体の37%が赤字事業になります。また、全事業の黒字額合計は5632億円、赤字額合計は1兆1855億円で全体収支は6223億円の欠損になっています。
第2に、赤字事業の割合はとくに病院事業と交通事業で高くなっています。病院事業では638事業のうち477事業(75%)が赤字経営です。また、バス事業では30事業のうち23事業(77%)が赤字経営であり、地下鉄事業も9事業のうち5事業(55%)が赤字経営という状況です。その一方で、事業数の多い水道事業では赤字経営の割合は22%であり、また下水道事業でも赤字経営は32%で、比較的低くなっています。
第3に、法適用企業の赤字額1兆1855億円の事業別内訳をみると、病院事業の赤字額5111億円が最大で、赤字額全体の43%を占めています。それに次いで赤字額が大きいのは、事業数の多い水道事業で940億円(赤字額全体の8%)です。以下、地下鉄事業776億円(同7%)、バス事業576億円(同5%)という状況になっています。
表 地方公営企業(法適用企業)の経営状況(経常損益) (2014年度:億円)
|
全体 |
水道事業 |
工業水道 事業 |
バス事業 |
地下鉄 事業 |
病院事業 |
下水道 事業 |
黒字事業 赤字事業 事業数 |
1,914 1,149 3,063 |
1,064 307 1,371 |
124 26 150 |
7 23 30 |
4 5 9 |
161 477 638 |
396 190 586 |
黒字額 赤字額 収支 |
5,632 11,855 △6,223 |
2,703 940 1,762 |
265 519 △254 |
18 576 △558 |
261 776 △516 |
259 5,111 △4,852 |
1,592 202 1,389 |
注)主な法適用企業のみを計上した。
出所)『地方財政白書 平成28年版』より作成。
【参考文献】
・総務省編『地方財政白書 平成28年版』日経印刷、2016年
・重森暁・植田和弘編『Basic地方財政論』有斐閣、2013年
Q24 なぜ予算制度について重点的に学習しなければならないのですか?
A24 地方財政の運営は予算制度にもとづいて行われますので、予算制度は地方財政の学習の出発点になるほど重要です。予算制度は予算、つまり一会計年度の収入と支出の予定を立てて、執行する一連の過程であるとともに、地方財政の規模や構成を決める公共的意思決定のシステムです。それは住民生活に大きな影響を及ぼしますので、意思決定に住民が参加することを保障する財政民主主義にもとづく制度でもあります。予算は文書のかたちであらわされ、議会における承認手続きを不可欠としますが、予算の承認とは、一会計年度の地方自治体の活動に対する住民の合意であり、それに必要な負担にも合意することを意味します。そして、予算の承認は執行過程における統制も含まれ、それは次年度の編成過程にも必然的に反映されるという緊密かつ不断の関係方式が確立されていなければなりません。
地方自治体の予算に関する名著である加藤(1982)では民間企業の行動、予算統制、自己に対する管理との決定的な相違があげられています。公共権力体の統治構造のなかで行政は位置づけられますが、「権力の行使は国民または地域住民の自由と権利を奪いうるものである」。貨幣経済の下では、政府自らその必要貨幣量を獲得しうる生産の基盤、つまり生産手段をもたない場合には、「活動のための必要財源を民間部門から租税によって獲得しなければならぬ。しかもその獲得の仕方は、有無を言わせず権力によって強制するというやり方である。しかも納税者は個別的にはその対価を貰うわけではない。しかも租税は自己の自由と権利をおびやかす権力の行使に用いられる。このような仕方で行政の行動というものが存在する。租税を支払う国民や住民はこのために、自らの代表によってその財布の統制を権力の行使者にたいして加えようとする」。これが財政上の統制であり、その道具が予算制度ということになります。
予算制度改革は地方財政民主主義の発展のために不可欠な課題ですが、これまでのQ&Aにみるように、国との間に形成された複雑な行財政関係を整理して地方自治体の財政自治権を充実、強化する分権改革により完結すると考えられます。
Q25 予算編成はどのように進められるのか、具体的に教えてください。
A25 予算制度は予算の編成から審議・議決、執行、決算に至る一連の過程をさしますが、ここでは某県を事例に2017年度当初予算編成スケジュールをあげておきます(表)。予算を編成し議会に提案する権限は首長だけがもちますので、県庁内で作業が行われます(予算制度の内部統制機能)。また編成作業は国の動きを追いかけるかたちになっています。例えば、国の予算案の閣議決定は12月の終わりに行われますが、県庁内部での予算案は1月から2月にかけて確定となります。
市町村の当初予算編成スケジュールについても某町(人口1.8万人)を事例にあげておきます。①予算編成方針公表2016年10月20日→②各課要求期限12月2日→③総務課長査定12月12日~2017年1月12日→④町長・副町長査定1月23日~30日→⑤最終調整1月30日~2月6日→⑥予算案の決定2月8日→⑦予算議案提案3月上旬。予算編成方針では第1の柱に、「平成28年度から始まった普通交付税の合併算定替の段階的縮減に合わせ、物件費や補助費等を整理・削減すること」があげられています。また他の市町村と同様に、某町の予算編成作業も国や県の動きを追いかけるかたちになっています。なお、予算過程は編成や決算などをあわせると複数年度に及びますので、一会計年度には予算の重層的な構造がみられます。
Q26 予算原則という言葉を聞いたことがありますが、何ですか?
A26 予算制度では適正な財務統制が行われ、財政民主主義が実現するための予算原則が地方自治法等にもとづいて定められています。それは以下の5つがあげられます。
第1に、総計予算主義の原則(完全性の原則と呼ばれることもあります)。それは地方自治体の活動にかかわる収入および支出について、予算書に全てがいわゆる「純計」記載ではなく完全に計上されていなければならないという原則です。
第2に、単一予算主義の原則。予算を単一の見積表として作成し、その中にあらゆる歳入(収入)および歳出(支出)を含み、予算の調製は1カ年度に1回にすることが望ましいという原則です。総計予算主義の原則は予算の内容に、単一予算主義の原則は予算の形式に重点を置いていますので、両者は相互補完的な関係にあります。
第3に、予算事前議決の原則。予算はその会計年度が始まる前に、議会で議決・承認されなければならないという原則です。なお、議会は予算案の議決権をもっていますので、予算案の修正を可能にしますが、この場合にはいくらかの制限があります。
第4に、予算限定性の原則。これは次の3つの側面、すなわち特定目的の予算はその目的のみに使用すべきであるとして予算の費目間流用を禁じる質的限定性、議決された予算額以上の超過支出や予算にない支出を行うことを禁ずる量的限定性、予算で承認された期間内(通例1年)に支出を行わなければならないという時間的限定性からなります。
第5に、予算公開の原則。これは予算の作成、審議・議決、執行、決算に至る一連の過程を通して、あらゆる財政情報が正確かつわかりやすいかたちで国民に知らされることを要請します。地方財政民主主義を実現するための情報的基盤の根幹をなす原則です。
これらの諸原則は、現実には地方自治体の予算過程において実現しているとは言えません。つまり、予算原則どおりとは言えない財政運営が行われています。しかし、地方財政の規模が大きくなり、その構成も複雑になっており、財政運営の高度化が要請されている昨今、予算原則の問題としてどれほど深刻なのかを見極め、その課題を共有、解消していくとともに、法制度の範囲内でも予算編成手法等を積極的に改良していくことが重要になってきています。このことから予算過程における議会の関与の強化も問われています。
Q27 予算原則からみた予算過程の問題、課題とは何でしょうか?
A27 第1に、総計予算主義が崩れていること。典型例は、地方公社や第三セクターの存在、拡大であり、それらについては地方自治体の出資比率が25%以上の場合、監査の対象になるのみで、予算全体は議会による議決の対象とはなっていません。
第2に、単一予算主義から大きく乖離していること。現実の地方財政には一般会計以外に多くの特別会計が存在しています。また財政運営上、当初予算に続いて年数回の補正予算が編成されており、年度末には歳入歳出に大きな違いが生じる場合が少なくないです。
第3に、予算事前議決の原則に関しても、議会が総与党体制であることも多く、首長や行政による予算編成を住民の立場から統制するという機能は著しく低下しています。他方で、首長の権限には「専決処分」があり、議会が議決すべき事柄を首長が議会に代わって行うことができますが、この濫用がみられます。
第4に、予算限定性の原則のうち特に単年度会計主義は徹底されていません。そもそも地方自治法では地方自治体が長期に及ぶ事業を実施する場合、その支出は1カ年度を超えることから、「継続費」、「繰越明許費」、「債務負担行為」など例外が認められています。また赤字回避のための年度をまたぐ会計処理が重大な問題になる場合があります。
第5に、予算公開については、地方自治法は予算の議決を受けた後の事後報告をさし、予算編成過程で住民の意見や要望を聞くためのものとはなっていません。また予算書が公開されても、多くの住民にとって複雑でわかりにくいです。
こうした諸問題を背景に予算制度改革が行われています。①決算の過程が重視されるようになっています。例えば、監査制度や情報公開が強化されています。第三者による政策評価や住民独自の分析活動が行われています。また貸借対照表等の財務書類が整備、公表されています。②予算編成の権限と責任が首長に専属している状況下で、それ自体が課題を抱えるものの編成段階で住民参加が進められています。千葉県市川市や愛知県一宮市などでは市税の使途を市民(納税者)が直接に決めています。
【参考文献】
・加藤芳太郎『自治体の予算改革』1982年、東京大学出版会、12~13ページ。
・重森曉・植田和弘編『Basic地方財政論』2013年、有斐閣、第14章。
Q28 国と地方を通じた歳出のうち地方はどのくらいの割合を占めていますか?
A28 本シリーズの第1回で述べられているように、私たちへの公共サービスの提供において日本の地方自治体は国より大きな役割を果たしています。2015年度決算をみると、国と地方の歳出の合計から重複分を除いた歳出純計額は168兆円ほどで、うち地方自治体が97.7兆円、国が70.7兆円です。図1は、それを目的別にみたものです。とくに、年金関係を除く民生費、学校教育費、警察消防費、国土開発費、商工費など、いずれも私たちの暮らしと関係が深い分野において自治体経費の割合が高いことが分かります。
このように、自治体の歳出規模が国のそれを上回るのは、戦後の一貫した傾向です。とくに自治体の経費膨張が著しかったのが高度経済成長期と1990年代のバブル経済崩壊後の数年間です。いずれも、普通建設事業費の増加が主たる要因でした。他方、1980年代の「行政改革」や2000年代の「構造改革」「三位一体改革」など、国の財政再建を優先して地方交付税や国庫支出金の縮減政策が進められた時期は、相対的に自治体財政の縮小が進みました。
図1 国と地方の役割分担(2015年度決算)
※出典:総務省ホームページ「地方財政関係資料」(http://www.soumu.go.jp/iken/11534.html) より
Q29 経費の分類を教えてください。
A29 自治体の経費分類は、2種類あります。1つは、支出の対象となる行政の目的による「目的別分類」で、議会費、総務費、民生費、衛生費、労働費、教育費、農林水産業費、商工費、土木費、公債費などです。自治体の行政分野に応じた分類とも言えます。
もう1つが、経費の経済的性質に着目した「性質別分類」です。どのような事業を行うにせよ、必要な施設や備品を整え、サービスを担う人を雇わなければなりません。施設整備に必要な経費は「普通建設事業費」、備品などの調達に必要な経費は「物件費」、そして人を雇うのに必要な経費は「人件費」です。この点は、自治体も民間企業も変わりません。民間企業にはない自治体固有の経費の最たるものが生活保護など社会保障政策の一環として行われる金銭給付である「扶助費」でしょう。また、自治体が運営する公営企業や特別会計の収入の一部に充てられる「繰出金」は、採算が厳しくても提供が必要な公共サービスを支えるのに大きな役割を果たしています。「補助費等」は、他団体の運営費の一部に充てられます。これらが少なくない比重を占めていることも、自治体の固有性と言えます。
図2は、地方財政傾向における歳出の推移を見たものです。歳出総額が抑制傾向にあるなかで、社会保障関係費の増加分を、給与関係経費や投資的経費(単独)の減で吸収している状況がうかがえます。これを性質別歳出で見ると、貧困・格差社会の深化を反映して扶助費の比重が急増しています。
Q30 人件費の縮小傾向をどう考えればよいでしょうか?
A30 自治体がどういう仕事に力を入れているかを見る指標として、公務員がどのように配置されているかを見ることも大切です。なぜなら、公共サービスの多くは人的サービスであり、専門性に優れた職員が、どれくらい配置されているかがサービスの質を左右するからです。総務省「2016年地方公共団体定員管理調査結果の概要」によると、地方自治体の職員数は、1994年の328万人をピークに減少が続き、2016年度は273万人と、20余年間で50万人を超える減少を示しています。その内訳を見ますと、警察官と消防吏員は10%ほど増加していますが、一般行政職員と教育関係職員が20%を超える減少となっています。その一方で、自治体で働く非正規職員が増えています。総務省「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査」によると、2016年4月現在の臨時・非常勤職員の総数64万4725人で、前回の12年調査から4万5748人増加しています。職種別では事務補助職員が約10万人と最も多く、次いで教員・講師が約9万人、保育所保育士が約6万人、給食調理師が約4万人、図書館職員・看護師がそれぞれ約1万6000人となっています。要するに仕事はあるにもかかわらず正規職員が減らされたために、非正規職員で補わざるを得ない状況が進行していることがうかがえます。
いわゆる「待機児童」問題が一向に解消されず、保育所への入所が認められなかった人による「日本死ね!」というツイートが大きな反響を呼んだこと、教員の過剰労働が深刻な社会問題となっていることなどに示されるように、保育・教育など公共サービスの充実は切実な課題です。しかし、残念ながらこの国では、こうした行政分野の充実のために人員を増やすことを怠ってきました。それは、1980年代の「行政改革」以来今日まで、人件費の抑制をひたすら追求してきたことによります。
図2 地方財政計画の歳出の推移
※出典:総務省地方財政審議会
「今後目指すべき地方財政の姿と平成29年度の地方財政への対応についての意見」(2016年12月14日)より
Q31 自治体経費の「効率性」をどう見たらよいでしょうか?
A31 「お役所仕事」などと揶揄されがちな自治体の仕事ぶりへの批判を背景として、経費の効率性がしばしば問われてきました。そして1980年代に進められた「行政改革」の一環として、外注化・民間委託などが進められました。その後も、社会資本整備に民間の手法を導入しようとするPFI(Private Finance Initiative)、民間企業における経営理念、手法、成功事例をできる限り行政分野に導入しようとするNPM(New Public Management)、公の施設の管理を民間事業者に任せることも可能とする「指定管理者制度」など、次々と新たな手法が導入されてきました。それらにおおむね共通する考え方は、自治体の経費支出に「コスト感覚」を反映させるために民間企業的手法を導入するという点です。
経費支出に際して同じ効果が見込めるのであれば、少ない支出で済むように工夫するべきであることは言うまでもありません。ただし、改めて確認しなければならないのは中央政府・地方自治体共に、租税という無償資金を主たる財源として、無償ないしは格安で公共サービスを提供することを主たる仕事としている点です。どういうサービスをどのように提供するかを判断する基準は、憲法などに定められた人権保障が最優先に考慮されるべきであり、その最終判断は議会制民主主義に基づく手続きによって決められるべきです。
一例として保育サービスを挙げますと、民間企業的発想からすると、そのサービスを賄うのに必要な費用は「受益者」である保育サービスを必要とする人が負担することになります。しかし他方、保育所は、女性・男性問わずに働く権利を保証するための施設と言えます。保育が充実することによって、多くの人々が働き続けることと子育てとの両立が可能となり、担税力を有する労働者が増加し、自治体の税収増にもつながります。そうすると、保育サービス充実の「受益者」は、個人のみならず社会全体に及ぶと言ってよいでしょう。このように、経費の効果を、直接の利用者が享受する範囲にとどまらず、社会全体から見渡すことを「社会的効率」といいます。経費の効率性は、こうした視点からも評価する必要があると思われます。
Q32 財政健全化法の目的は何ですか?
A32 財政健全化法は、2008年4月の「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」のことです。この法律の施行を受けて、すべての自治体は2007年度決算以降、図表に示される健全化判断比率(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率)と資金不足比率を算定し公表することになりました。
・実質赤字比率:地方公共団体の最も主要な会計である「一般会計」等に生じている赤字の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したものです。
・連結実質赤字比率:公立病院や下水道など公営企業を含む「地方公共団体の全会計」に生じている赤字の大きさを、財政規模に対する割合で表したものです。
・実質公債費比率:地方公共団体の借入金(地方債)の返済額(公債費)の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したものです。
・将来負担比率:地方公共団体の借入金(地方債)など現在抱えている負債の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したものです。
・資金不足率:公立病院や下水道などの公営企業の資金不足を、公営企業の事業規模である料金収入の規模と比較して指標化し、経営状態の悪化の度合いを示すものです。
これら4つの健全化判断比率のうち1つでも該当(イエローカードのようなもの)すれば「早期健全化団体」となり財政健全化計画の策定、個別外部監査が義務付けられることになった。また、将来負担比率を除く3つの健全化判断比率のいずれかが再生判断比率を上回(レッドカードのようなもの)ると「財政再生団体」となります。
図表 健全化判断比率等の対象となる会計
出所)『平成29年版地方財政白書』より
Q33 自治体財政は大丈夫なのですか?
A33 早期健全化団体は2007年度では43団体ありました。しかし、その後2009年度14団体、2014年度から1団体へと減少し2015年度も同様です。
2015年度の実質赤字比率については早期健全化基準以上の団体なし(2014年度決算も同じ)、実質赤字額がある団体なし(2014年度決算も同じ)です。
連結実質赤字比率については早期健全化基準以上の団体なし(2014年度決算も同じ)、連結実質赤字額がある団体なし(2014年度決算1団体)です。
実質公債費比率については財政再生基準以上の団体1団体(夕張市:76.3%)(2014年度決算:夕張市61.0%)であり、都道府県平均12.7%、市区町村平均7.4%(2014年度決算:都道府県平均13.1%、市区町村平均8.0%)です。
将来負担比率については、早期健全化基準以上の団体は1団体(夕張市:632.4%)、都道府県平均175.6%、市区町村平均38.9%(2014年度決算:都道府県平均187.0%、市区町村平均45.8%)です。
資金不足比率については、経営健全化基準以上の公営企業会計は10会計(2014年度13会計)であり、その内訳は簡易水道事業1会計、交通事業1会計、病院事業1会計、宅地造成事業3会計、観光施設事業2会計、その他事業2会計です。資金不足額がある公営企業会計は47会計(2014年度58会計)です。
Q34 なぜ「健全化」したのですか?
A34 ◆(その1)―人件費の抑制
近年の地方財政計画の歳出の動向を確認しておきましょう。2001(平成13)年度の89.3兆円がピークでその後減少し、2012・2013(平成24・25)年度は81.9兆円と2001年度と比べて7.4兆円減少しています。社会保障関係費等は、21兆円から32兆円へと11兆円増加していますが、給与関係費は24兆円から20兆円へ4兆円減少し、投資的経費(単独)も18兆円から 5兆円へ13兆円減少しています。このように、近年では、高齢化の進行等により社会保障関係費等の一般行政経費が増加する一方で、給与関係経費や投資的経費が減少しているため全体としては抑制基調にあります。
このように、地方財政計画における近年の歳出は、歳出特別枠を含めてもほぼ横ばいで推移してきました。しかし、その内容を見ると国の制度に基づく社会保障関係経費が増加しており、その増加分を、給与関係経費や投資的経費(単独)の減で吸収してきています。このため、給与関係経費と投資的経費はピーク時から大幅に減少しており、喫緊の課題への取り組みも求められるなか、これまでと同様の対応を続けることは困難となってきています。
また、2015年度の地方公務員の総職員数は約274万人ですが、1994年度をピークとして21年連続して減少しており、この間、約54万人(17%)減少しています。こうした事態に対して、地方財政審議会は、「地方自治体は、住民に身近な存在として、地域の実情に基づく社会保障等の対人サービスを担っている。これらのサービスを適切に提供するためには、一定のマンパワーの確保が重要である。今後、少子高齢化への対応や社会的に支援が必要な人々へのきめ細かな対応がますます求められることを考えると、これまでと同じように地方公務員の数を減らすことは限界にきている」と述べています。
◆(その2) ―公立病院の縮小
2007(平成19)年12月に策定された「公立病院改革ガイドライン」に基づいて、経営の効率化、再編・ネットワーク化、経営形態の見直しに取り組む病院が大幅に増加し、経常損益が黒字である病院の割合が公立病院改革プラン策定前の約3割から約5割にまで改善するなど一定の成果を上げているとされています。一方、効率だけでは公立病院を守れないとして、市議会に請願文書が提出された事例もあり矛盾が深まっています。
岐阜県中津川市は、県が策定した地域医療構想に基づき、国保坂下病院の一般病床を2018年度に廃止するとする改革プランを決定しました。背景には医師不足や経営の悪化がありますが、病院利用者から不安の声が上がり、次のような存続を求める請願書も提出されています。
「国保坂下病院は中津川市の自治体病院として、住民の健康と命を守るかけがえのない役割を果たしています。
2016(平成28)年12月21日、市長は国保坂下病院の入院機能を「療養病床」として存続させるなどの意向表明を行いました。しかし、この方針では急性期や回復期などの「一般病床」がなくなり、たとえば肺炎、骨折、白内障手術の術後の入院などができない病院になってしまうと住民は大きな不安を抱いています。
また、方針通り2018(平成30)年度までに約100床の病床削減を行った場合、稼動している病床数が市の推定している入院患者数以下になり、今後数年間にわたって公立病院全体として病床が不足する事態も予想されます。このままでは、必要な入院や在宅介護など市民全体の生活に大きな影響が及ぶのではないかと懸念されます。
こうしたことから、国保坂下病院の急性期、回復期などの「一般病床」の存続を強く求めます。住民に寄り添った地域医療体制の確立のための慎重な審議をお願いします」
Q35 財政健全化法の問題点はどこにありますか?
A35 以上のことから、早期健全化団体が減少し、地方財政の「健全化」が保たれている要因をまとめると次のようになります。
実質赤字の解消は人件費抑制による歳出削減、連結実質赤字の解消は病院事業の統廃合と一般会計の事務事業の見直し、実質公債費比率改善は建設事業の抑制と地道な債務償還、将来負担比率低下(改善)は債務償還と基金の積み増しです。
しかし、自治体財源保障の抑制が図られるなかでの自治体財政「健全化」は、公共部門の変質・劣化の定着を意味すると言えるでしょう。