2006年02月10日(金)
『無防備地域宣言運動』を考える―これは憲法擁護の運動か?①
●「無防備地域条例」「無防備地域宣言」を自治体から実現する運動がある。関西方面の方は新聞報道もかなり多くなっているので、ご存じの方も多いと思う。この間、20以上の自治体で、「無防備地域条例」等の直接請求運動が展開されている。
もっとも、条例が可決された自治体はまだなく、最近では大阪市をはじめ、奈良市、高槻市、京都市などにおいて、直接請求が否決されている。
「無防備地域宣言運動全国ネットワーク」という団体も一昨年に結成されており、その呼びかけ人のメンバーを見ると、真面目な憲法学者や国立市長をはじめ地方自治の発展をめざす運動をされている方々の名前を見て取れる。
最近では、自治体研究社から池上洋通・澤野義一・前田朗編『無防備宣言で憲法9条のまちをつくる』という出版もあり、私のところにも「無防備地域宣言ってどういう運動?」「本当に憲法9条を実現する運動?」などという質問が来るようになった。
●実は、この運動については、私自身かなり以前から「キチンと解明しておかなければならない」という問題意識を持っていた。というのは、1985年に初めてこの条例の直接請求を行った天理市であるとか、88年の小平市の運動などをリードした、故林茂夫氏(軍事評論家)とは私の以前の職場が林氏の自宅のソバにあったことなども手伝って、色々なおつきあいがあったからでもある。
林氏が、ジュネーブ条約の追加議定書(1977年)の無防備地域という規定に興味を示して、これが、地域の非戦の運動に活用できるのではないかという議論を提供しはじめたのは、私の記憶では1980年代の初め頃であったと思う。
林氏の議論は、それなりに注目を集め、全国の大学の法学部などの会合に招かれて「講演」することなどもかなりあったと言う。しかし、学者の間では、国際法の理解や憲法との関係など、色々と疑問が出ていたようであるが、結局、その後、大きな運動をリードすることにはつながらなかった。
一番大きい要素は、ジュネーブ条約の追加議定書という「軍事筋」の話しが、日本の平和運動と接点をもつのかどうかという問題であり、同時に、日本がこの追加議定書を批准していなかったという「到達点」であったと思う。
この後者の問題については、2004年に有事法制=国民保護法制の施行に伴って、有事の規定を行う必要とダブって、この追加議定書を日本政府が批准したことによって、状況が変化して来た。運動を行っている人たちは「新しい情勢」と認識しているようである。
●ここまで、書いてきた「雰囲気」をみて、読者の皆さんは、私があまりこの運動に「乗り気でない」ことは察しておられると思うが、実はその通りなのである(笑い。
私はこの運動を最近リードしている団体がMDS(民主主義的社会主義運動)という、その昔、共産党を分裂して出来た「日本のこえ」という団体の「末裔」が組織しているものだから「駄目だ」というような狭い視野から批判をしようとは思っていない。暴力を肯定したり、内ゲバを肯定或いは反省しない団体とは、共闘できないと思っているが、これがなければ、憲法擁護の共闘なども可能と思っている「柔軟?」な発想を持っているつもりである。
最近のこの運動をめぐる特徴は、ネット右翼の格好の攻撃材料になっていること、また、最近の情勢を反映して「憲法9条を実現する運動」の一環として位置づけられていることである。また、当然の話であるが、自治体や地域を基礎にして運動を発展させる方向を指向していることである。
もし、この運動が「憲法九条を実現」したり、「日本の平和を地域から実現する」運動として本流であるとするならば、全労連をはじめ地域での運動に熱心な自治労連などが「こぞって」この運動を支持し、担い手になっていく必要があるし、突き詰めれば、この運動を「やらない」ことは、重大な方針上の欠点であるということになろう。
ここまで言わないまでも、憲法9条や日本の平和を守る上で、現実の運動として「活用」できるものならば、多少は運動の中に取り入れてもよいという議論もあるだろう。
●自治体研究社という組織が、どのような議論を経て、この『無防備地域宣言で憲法9条のまちをつくる』という出版を行ったのかは知らないが、出版されている以上は、これを批判的(科学的)に検討するのは、自治体の運動に関心をもつ人間としては「責務」であるとすら思う。
私は色々な人に、この運動についてどう考えるのか質問をするのであるが、この運動が「本筋」であるという認識に立っている人は極めて少なかった。と同時に、「無理筋」であるとか「駄目」という認識に立っている人も意外に少なかったのである。つまり、「悪い運動とは言い切れない」というような落ち着き方をしているように思った。
こういう私も、現時点で「全く駄目」「平和運動に逆流する」というような認識を持っているわけでもない。しかし、これが「本筋」の運動であると主張されると「そうではない」と言わざるを得ないのである。
●そこで、ちょっと『無防備地域宣言で憲法9条のまちをつくる』を素材として、読者の皆さんと一緒に考えて見たいと思う。
前田朗氏はいう。「憲法九条は、戦力不保持、戦争放棄、交戦権否認を定めています。つまり、憲法九条は日本国家の『無防備国家宣言』なのです。ところが、憲法九条はまったくといっていいほど守られてません。1954年には自衛隊がつくられ(警察予備隊、保安隊からの再編)、半世紀にわたって増強され続けました。・・・・政府が憲法九条を守らないのなら、市民が自分たちの手で憲法九条を活かす運動をつくり出さなくてはなりません。政府に憲法九条を守らせるだめに、これまで以上に反戦平和運動を強めなければなりませんし、地域で憲法九条の理念を活かす政策提言も進めなくてはなりません。・・・その一つの挑戦が・・・無防備地域宣言運動なのです」と。
つまり、無防備地域宣言運動は
①憲法九条を守らせるための市民の運動である。
②反戦平和運動である。
また、「非核平和条例」と並んで「地域で憲法九条を活かす試み」として「無防備地域宣言運動」が位置づけられている。つまり、非核平和条例やこれまでの憲法を擁護する様々な運動を否定をしているのではなく、それと併存する運動であると位置づけている点が重要であろう。(つづく)

