2005年01月04日(火)

自民党改憲論を糾すー改憲反対と構造改革反対の結合を

●昨年の11月16日に、自民党の憲法調査会(保岡興治会長)が「改憲草案大綱の素案」を発表した。しかし、中谷元・憲法改正案起草委員長が、陸上自衛隊幹部に改正案作成を依頼していたことが発覚したことなどから、12月7日に、これを撤回し、新機関で議論をし直すことになった。

自民党改憲草案大綱の素案(参照) 

 この「素案」の特徴は、「国民主権、基本的人権、平和主義の3つの基本的原理は今後も維持」と言いつつ、「天皇は日本国の元首」であるとか、「国民の責務」として、「国民に国家の独立と安全を守る責務」とか「国家緊急事態には国および地方自治体などの実施する措置に協力」することを謳っていることである。
 現在、国民の憲法上の「義務」は「労働」「義務教育」「納税」であるが、新たに大きな「責務」が課せられるわけである。しかも、「安全を守る責務」というような不確定・不明確な要素によって、時の政府(内閣)が「緊急事態」を発すれば、国民に「責務」=権利の抑制が発生する構造になっている。
 これは、国民に権利を保障し、国家の「自由」を規制すべき憲法を根底から変質させるものと言える。

 詳細はリンク先を参照して欲しいが、上記の具体化は「第8章」(国家緊急事態、自衛軍)に規定されいる。すなわち、首相は(1)防衛緊急事態(2)治安緊急事態(3)災害緊急事態-の発生を認めた場合、布告▽国家緊急事態が布告された場合、基本的な権利・自由は制限できる▽国会緊急事態において国会の措置を待つ暇がないとき首相は法律で定める事項に関し政令を制定できる。その措置は国会の事後承認を得なければならない▽個別的、集団的自衛権行使のための必要最小限の戦力として自衛軍設置▽自衛軍の任務は、防衛、治安、災害の緊急事態での秩序維持、国際貢献のための活動(武力行使を含む)。
 
 一読して自明なように、①個別的・集団的自衛権行使のための自衛軍の設置②国際貢献のための武力行使の容認、が謳われており、国内外の「緊急事態」における国民の権利制限と武力行使を「政令レベル」で行うことを想定しているわけである。

なお、この問題については、渡辺治「『自民党・憲法改正草案大綱』は何を狙うか」『前衛』(05年2月号)に詳しい。是非、一読をお勧めしたい。
 
●自衛隊幹部の憲法改正案とは何か?
 
 こういった「素案」が「撤回」されたことは「結構」なことではあるが、背筋が寒くなるのは、この「素案」なるものが「自衛隊幹部」が作成した「改憲草案」にそって作成されたことである。

 年末の『週間金曜日』(12月24日付)に、この陸自幹部作成の「改憲草案」の全文が掲載されていた。3頁ほどの短いものではあるが、極めて明確な内容である。要点を拾っておこう。

*****************憲法改正(安全保障)***************

1. 安全保障に関し、盛り込むべき事項
(1)必要不可欠なもの
 ○侵略戦争の否認
 ○[自衛隊/自衛軍/国防軍]設置の明確な規定
 ○総理大臣の最高指揮権及び文民統制に関する規定
 ○個別的自衛権及び集団的自衛権、並び国連の集団的措置(集団安全保障)に基づく武力行使の容認
 ○国家緊急権利に関する規定
(2)望ましいもの(略)
2.憲法改正によって可能となる事項
(1)集団的自衛権の行使
(2)国連の集団的措置


*********************憲法草案(別紙)***************

第○章 安全保障

(侵略戦争の否定)
第○条 日本国は、国際紛争を解決する手段としての 武力による威嚇又は武力の行使(戦争)を否定する。

(集団安全保障)
第○条 日本国は、国際の平和と安全を維持するため集団安全保障制度に加入することができる。

(軍隊の設置、権限)
第○条 日本国は、国の防衛のために 軍隊を設置する(陸海空軍を置く)。
2 軍隊は我が国の防衛及び前条の規定に基づき行動したときは、集団的自衛権を行使することができる。
3 軍隊の任務、編成・装備及び行動・権限は、法律で定める。
4 軍人の身分は法律で定める。

(国防軍の指揮監督)(内閣総理大臣)
第○条 内閣総理大臣は、内閣を代表して国防軍の最高監督権を有する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

(国家緊急事態)
第○条 我が国の防衛その他緊急事態における体制は、法律で定める。
2 内閣総理大臣は、法律で定められた国家緊急事態に際し、法律に定められた手順に従い、日本国の領域及び特定の地域に国家緊急事態を布告し、国会に報告しなければならない。

第○章(司法)
(司法権)
第○条 司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所並びに特別裁判所に属する。
(特別裁判所)
第○条 特別裁判所の管轄に属するものは法律で定める。

第○章(国民の権利及び義務)
(国民の国防義務)
第○条  すべての国民は法律の定めるところにより、国防の義務を負う。
(国民は、法律で定めるとろにより、我が国の防衛その他緊急事態に際し必要な行動を執る義務を負う。)
 注)( )は、下線の代案である。 

****************************************************

●ご覧になったように「大変」なものである。同時に、自民党の「改憲」の狙いが率直に述べられている点で、興味深くもある。

 『週間金曜日』は、この草案作成の経過を批判して「蹂躙された文民統制」と批判をしている。また、一自衛官が「私事」として、こういった草案を作成することは、経過から言ってあり得ないと思われるので、憲法99条の「憲法遵守義務」にも反しているだろう。
 草案流出は、共同通信のスクープだということであるが、これに対するマスコミの「反応」は極めて鈍感であった。 

●多少レベルは異なるが、自民党の「草案大綱素案」では、自治体は道州と市町村になっており、都道府県が「中抜き」されている。ポスト市町村合併では、確実に都道府県の「形骸化」が進行するだろう。これに対抗する路線としては、やはり、都道府県が自治に果たして来た役割を解明し、完全自治体として住民のために「何ができるか」「しなければならないか」を、徹底して議論することであろう。序でながら、一言述べておきたい。

●さて、今後の憲法をめぐる状況について、日程を整理しておきたい。

 ○1月24日 自民党新憲法起草委員会初会合
 ○3月   民主党「憲法提言」(予定)
 ○4月   憲法調査会(衆議院)最終報告(予定)
        自民党「憲法改正草案」試案(予定)
 ○5月   連休あけに、「国民投票法案」の国会提出(予想)
        憲法調査会(参議院)最終報告(~6月?)
 ○11月   自民党「憲法改正草案」を発表(予定)

 憲法擁護の運動では、「9条の会」「憲法行脚の会」「憲法再生フォーラム」など、様々な団体が結成され、運動を強化している。労働運動として、こういった団体と共に、学習や行動を強め、日常の取組(とりわけ、構造改革に反対して生活と権利を守る)と結合した運動が求められよう。

 より大きな運動体(運動のコアとなる組織)が求められるし、それは、戦後の「統一戦線運動」の中でも、最大、最強のものでなければならないだろう。
また、こういった運動の展開の中で、「護憲」の勢力を拡大し、一致できる課題を拡大していくことが求められよう。