<< 2007年08月

1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

 2006年08月04日(金)

「自治体破綻法制」の危険度

●下記の論考は、『地方自治職員研修』8月号に寄稿したものである。印刷物と異なる部分があることをご承知置き頂きたい。なお自治体の「破綻制度」という用語は、経済財政諮問会議の「骨太方針2006」などで正式に出てくるものではなく、実際の法律名にも取り入れられないと思われるが、この名称で宣伝されたこともあり、敢えてそれを使用している。

①はじめに―「財政再建団体」とは

 夕張市が「財政再建団体」の指定申請を行うことを表明したが、これは1992年に福岡県赤池町が申請して以来14年ぶりのことである。この波紋が様々な形で全国に広がっている。総務省は、今秋までに整備する地方自治体「破たん法制」の導入時期を、当初予定していた「3年以内」より前倒しする方針を固めたと報道されている。
 「財政再建団体」というのは、地方財政再建促進特別措置法(再建法)に基づき、赤字額が標準財政規模の5%(都道府県)または20%(市区町村)を超えた「破産」状態にある場合、自治体が総務大臣に申請し指定を受ける制度のことである。正式には「準用財政再建団体」という。 

 夕張市の説明によれば、負債総額は632億円にのぼる(市民一人当たり約480万円の負債)。これまで、赤字額が標準財政規模の20%に満たなかったのは、実は、地方債を発行せずに、一時借入金によりやり繰りをしていたことによる。この一時借入金が288億円にのぼり、これ以上の自転車操業が不可能になったことから、一般会計の赤字に計上せざるを得ない実態となったわけである。
 一見「突如」として夕張市が「破産」状態になったことについて、マスコミは様々な報道をしている。現行の「財政再建団体制度」の持つ不備や問題などについて、改めて様々な議論が行われるようになった。
夕張市が行っていた「一時借入金」というのは、地方自治法施行令第166条の2「会計年度経過後にいたつて歳入が歳出に不足するときは、翌年度の歳入を繰り上げてこれに充てることができる」という規定によるものと思われるが、この手法でこの10年間も「しのいで」来たこと自体が驚きである。総務省は実質的な脱法行為であるとし、自治体の一時借入金などの状況を調査するよう都道府県に通知を出した。
 いわゆる隠れ借金と言われる、借入金や会計操作による負債隠し、公社や第三セクター等の借金や赤字経営などは、自治体の一般会計(普通会計)には直接出てこないので、これだけに着目をした「財政指標」に批判が向けられるのはある意味で当然である。

 また、このような問題以前に、地方債のような借金を自治体の「歳入」として見ること自体に大きな矛盾がある。実際、総務省の財政指標である「実質赤字」なども、借金をすれば解消されてしまう不思議な光景が続いていたのである。この問題は、ここでは深入りしないが、岩波一寛編『どうする自治体財政』(2001年、大月書店)を参照して欲しい。

②自治体財政危機の原因の究明が基本

 従って、自治体の財政の「連結決算」(管理団体である第三セクターや公営企業、各種特別会計や、その他の出資団体などとの関係)の必要性や、情報公開などの重要性の指摘は至極当然であろう。
このような冷静な制度問題に関する議論は必要であり、現にこれまでも様々な改善への提言などが行われてきた。ただ、問題になるのは、今日の自治体財政危機の真因を問わず、自治体が交付税や借金に「安易に依存」して来たことが「財政規律」を緩め、夕張市のような破綻に帰結したというような「ためにする」主張である。
 今日の自治体の財政危機は、基本的にはバブル崩壊後に自治体財政を活用して、国の景気回復政策に公共事業を中心とした投資を必要以上に行わせたことに原因がある。これを、個別の自治体を問題にして、経営感覚の欠如であるとか、国への依存体質を指摘するのは、一面的な議論であり、自治体財政危機の真の原因を隠蔽することになる。

 夕張市が手を出した、ホテルやスキー場経営などは1987年の「リゾート法」による推進政策が背景にあり、第三セクターなども、元々は1970年代に導入され、バブル時期(やはり87年)に当時の自治省が、民間資金の導入を奨励したことから一気に拡大したものである。福岡県赤池町が「準用団体」の指定申請を行った頃、実は夕張市は「自主再建」をめざす方向を選択していた(詳しくは、橋本行史『財政再建団体―赤池町財政再建プロセスの検証』公人の友社)。しかし人口が、1960年の12万人から1万人まで減少した中での、観光事業への借金による資金投入継続、旧産炭地域優遇政策の廃止等が、自主再建を不可能にしたのであった。
 こういった事実関係を踏まえて、夕張市の行政当局や議会の姿勢が批判される必要があるだろう。

③「自治体破綻法制」の前提としての資金調達の市場化

 今回の夕張市の「準用団体」指定申請は、現行の「財政再建団体」制度への批判を伴いつつ、世論は「財政破綻法制」が必要だという方向に誘導されていくと思われる。そこで、その善し悪しを論ずる前に、議論の前提条件についてふれておきたい。
 第一に、自治体の財政破綻が助役の「使い込み」などから発生したこともあるように、財政の収支尻という意味で「破綻」を捉えることも不可能ではない。しかし、今日の自治体については、行政当局の自己点検、情報公開制度、第三者機関による監査、議会による予算や決算の議論や点検など、制度的には相当のチェック機能が存在する。
 割り切った言い方をすれば、こういった諸制度をかいくぐって行われる不正行為や不適切な支出などがあれが、そういう不正行為等が不可能になる更なる制度の民主化を志向すれば良いだけのことである。
 
 第二に、それではよく言われる「民主主義の陥穽」という議会制度の「欠陥」から、住民が要求する財政支出が膨張し、これに歯止めがかからなくなるという意味での「破綻」は存在するだろうか。今回の夕張市の例を見ても、議会や行政当局の責任は免れないだろうが、直接の責任が住民にあるとは到底言えないだろう。戦後の自民党の利益誘導政治の存在は否定できないが、多くの住民が等しく利益を受けるというような構造は幸か不幸か存在しない。一定の地域への利益誘導も、その地域の支配という階層構造をぬきに論ずることは空論である。
 
 第三に、では今後必要になるという「破綻」とは何を想定しているのだろうか。一言でいえば、従前のような政府が管理する安全な資金(財政投融資による基金)への依拠が不可能になり、文字通りの市場から自治体が資金を調達しなければならないという、資金調達の変化=リスクへの対応である。分権一括法に基づく自治法改正において、地方債発行の自由化(許可制から協議制)を行ったが、本来の自由化とは市場化と等値できない制度である。
 今日、自治体のみでなく、行政の民間化(私化)が進行し、歳出面において行政が直接住民のために支出することから、民間に支出すること、また行政そのものを民間に移す方向が強められている。いわゆる「官から民へ」ということである。
 自治体の破綻制度(破綻法制)は、歳入面における民間化=市場化に対応した制度である。つまり、資金調達を市場に頼れば、資金がショートしたり、金利の変動に対応できなくなったり、行政の効率性が低下した場合に資金の調達そのものが金融機関によって拒否されたりという可能性が飛躍的に拡大するわけである。
 
 このように見てくると、自治体の破綻法制の確立は、歳出面における行政の民間化、歳入面における行政の民間化=市場化を前提としているのである。従って、破綻法制の善し悪しを論ずることは、行政の民間化=市場化の是非を論ずることが前提になるのである。一般的な「放漫財政」とか「赤字」が問題になるのではないことを確認しておきたい。

④地方分権21世紀ビジョン懇談会(竹中懇談会)における「破綻法制」の議論

 現行の「財政再建団体制度」は、国や県が一方的に市町村の財政破綻を認定して行われる制度ではなく、あくまで市町村が自主的に申請する制度である。勿論、既に述べたように、標準財政規模に対する一定の赤字額が前提になるが、それ以前に「起債制限団体」のように、地方債の多額の発行による公債費が一定の水準になると、地方債の発行が禁止されるという(総務省の指針による)制度もある。
 この指標は、様々な問題を有しているが(ここでは、詳しくふれない)、一定の客観的な指標である。今回の夕張市の場合、この客観的な指標が悪化しないような方法(一時借入金による自転車操業)で財政破綻が生じたことが問題にされている。しかし、それは、そのような脱法的な財政運営が不可能な制度にすればよいだけのことであって、破綻制度を導入する必要性と連動するわけではない。
  
 山口県の下関と釜山を結ぶ「日韓高速船」を運行し、破綻状態にあった第三セクターに補助金(8億4500万円)を支払ったのは違法であるとした住民訴訟は、最高裁で住民の請求が棄却されたが、それは、「議会の審議を経たことなどから、市長が支出に公益上の必要があったと判断したことは不合理ではない」というだけの話しである。逆に言うと、財政支出の方法に瑕疵があれば、当然に損害賠償の対象になるという論法であり、非合法的に民間のリスクを自治体が負った場合、責任生じることは自明である。
 破綻法制について論点を絞ってきたが、竹中懇談会における議論とその「危険度」について検討しておきたい。

 現在の時点で、「破綻法制」の枠組みは、①事前のチェック(早期是正措置を導入し、事前に指導)②債務残高などの指標も採用(ストックの指標も重視)③第三者による勧告も選択肢とする④債務カット(地方債や銀行借入のカット)が可能かどうかの検討などとなっている。
 よく考えなければならないことは、現行制度の場合、先に述べたように一定の客観的指標によって、自治体の財政運営をチェックする方式であるが、破綻法制は資金調達の市場化が前提であるので、客観的指標がどの程度役立つかは不明だという点である。例えば、自治体の「格付け機関」などが、ある自治体について必要以上に低い評価を行ったような場合、金融機関はその自治体に資金を低利で貸し出すことはしないだろう。
 つまり自治体の資金調達が市場に委ねられるということは、その自治体の経営効率や返済能力などが評価されるだけではなく、金融機関を取り巻く情勢や経済情勢に大きく依存するわけである。上記の竹中懇談会が示した枠組みは、自治体の経営責任と金融政策上の責任をごちゃ混ぜにしており、資金調達の市場化をアリバイ的に合理化するだけのものと言ってよい。

⑤問題点の総括

 紙数も少なくなってきたので、問題の総括に移ろう。まず、竹中懇談会の枠組みであるが、「事前のチェック」制度は何を基準にするかによって、自治体の自主性を侵害しかねない。民間の破産の場合は、基本的にバランスシートであるが、資産の売却を前提としない自治体(政府)の場合の基準は大変に難しい。
「第三者による勧告」なども論外である。議会でも、長でも住民でもない「第三者」に民主主義は期待できない。アメリカなどのように裁判所が破産の判断を行うのであればまだしも(連邦破産法チャプター9)、怪しげな「第三者」とは一体何だろうか。

 また、とってつけたような「債務カット」などが自治体運営のプラスになるとも思えない。日本の場合、アメリカ(30%超)と違って地方債を一般住民が所有していることはないから、この制度は金融機関と自治体の関係になる。裁判制度もなく、つかみで解決するつもりだろうか。竹中懇談会の枠組みは、どこから見ても、現行の制度より遙かに劣るものであり、自治体の自主性の保障は期待できない。
 財務省は、「国民の財布から一番遠いところからものを考えるのが良い」とした上で、(1)国・地方の人件費(2)公共事業(3)地方財政(4)防衛、外交、科学技術、教育などその他の支出項目(5)社会保障(給付、保険料負担)の順位をつけて歳出削減を行うべきであると主張している。資金調達の市場化は、この議論を待たずして、弱小自治体の財政運営を不可能に陥れる可能性が大であり、自治体が自治体として存立できない環境を「整備」することになるだろう。
 今自治体に求められることは、怪しげなメンバーによる怪しげな議論を徹底批判し、自らを律する基準=自治体の財政規律を国民的議論に立って、提起することだろう。