2006年04月09日(日)
身勝手な経団連「歳出入一体改革に関する中間とりまとめ」
●4月18日に、経団連「歳出入一体改革に関する中間のとりまとめ」が発表された。副題に―スリムで強靭な政府の構築を求める―とあるように、自分たちを保護・支援する強い国家と、自分たちの「支出」に関しては小さい政府を要求している。
6月の経済財政諮問会議の「骨太の方針2006」に反映をさせるという目的である。私はどちらかというと、タフネゴシエーターで、押しも強い方なのであるが、その私が顔も赤らむような「要求」を平然と行う日本(ニポン)経団連という組織は一体「何様」なのだろうか。
実は、提言の終わりの方の地方税に関する部分に、「選挙権を持たない企業に対する超過課税や法定外税については慎重であるべきである」とのべている。選挙権もないのに、代表が政府の審議会などに自由に入りその見解を押しつけ、また、こういった要求も平然と行われているわけなので、「応分の負担をしてもらいたい」と思う方が当然だろう。政治献金は出来ても、税金は払えないというのだろうか。
●さて、前置きはこのくらいにして、以下、顔も赤らむ具体の内容を見ておきたい。
日本は今後「高い付加価値を生み出す製造業と、それを支える高品質のサービス業が相互に連携し、生産性を高めあう、活力ある経済社会を実現」しなければならないそうで、「『科学技術創造立国』に向けた科学技術の振興、資本蓄積を促進する法人課税の見直し、優秀な人材の育成・確保について、従来よりもさらに一歩踏み込んで、積極的な役割を果たすべきである。そうした経済成長に向けた基盤整備を戦略的に推進することが、今後の国、地方を通じた重要な役割の一つ」となるそうである。
要するに企業がハッピィなら、国民は皆ハッピィであると認識する、文字通りハッピィな発想なのであるが、実際は新自由主義的な構造改革の下で、国民の格差は拡大しており、企業が空前の利益を上げているにも拘らず、1%台の「賃上げ」がさも「ありがたい話し」として喧伝されているわけである。
それで、「『スリムで強靭な政府』の構築を目指し、歳出入一体改革を速やかに進めるべきである」ということになる。つまり、歳出入一体改革の目的が「スリムで強靱な政府」の構築だというわけだ。
●そこで、「プライマリー・バランスの早期の黒字化を通過点とし、その後の歳出入改革についても、政府債務残高の縮小を目指して、明確な目標と工程表を設定し、着実に推進していくべきである。国民の負担を最小限にとどめ、潜在的国民負担率の抑制を図るためには、改革のスピードが最も重要である」と、そのスピードが問題にされる。小泉内閣の下で一気に構造改革と財政再建のレールを敷きたいという発想である。
小泉首相も、記者会見で国会の会期延長に消極的な発言をし、医療制度改革などの構造改革、つまり歳出入一体改革を含む、社会保障や地方交付税に大なたを振るうことを、国民投票法や教育基本法改正にも増して、強力に取り組む姿勢を示している。まさに、二人三脚である。
次に、この具体の内容として「行政、財政、社会保障、税制の各分野」ごとに要求が提起されている。
●行政に関して、地方の部分では、「地方自治体は、受益と負担の関係を明確にした上で、住民に身近な行政サービスを効率よく提供するとともに、企業誘致、人材育成などによる地域経済の活性化に力を入れるべきである。」とされ、チャッカリと企業誘致なども入れ込んでいる。「受益と負担」とは、まず企業、とりわけ大企業に対して国民が要求すべき論理である。主権者である国民(=住民)にとっては、受益と負担は同一の土俵で論ずることはできない。まして、受益と負担が直結するという論理は、憲法をはじめ、どの法律を見ても出てこない。
なかなか良く研究していると感心したのは、「地方支分部局を含めた国と地方の機能の多層構造についても、国と基礎的自治体の役割分担を十分に精査したうえで、道州制の導入も視野に入れつつ、対応策を早期に検討する必要がある」と述べているクダリで、道州制を国と地方を跨ぐ「大リストラ」手段として位置づけていることである。
地方分権とか自己決定とか美辞麗句(?)を並べつつ、落としどころは大リストラだというわけである。結局、これで、行政はスリムになり、住民は行政に頼れず、また、要求も出しにくくなるという寸法である。
これに重なるように、規制緩和による行政の民間化と公務員リストラが続く。
●こういったことで、国民に必要な行政施策とムダな事務事業の点検・仕分けも行わずに、一気にスリム化を推進し、財政問題では「財政圧迫要因となっているのは、社会保障関係費と地方交付税交付金等であり、社会保障制度改革とあわせて、地方自治体における財政規律を高めることが喫緊の課題である」ということになる。
「地方歳出の一層のスリム化を進め、歳出入一体改革を実現するためには、地方の歳出総額について全体の削減目標を置いて管理し、社会保障関係費、公共事業費、公務員人件費など、聖域を設けることなく、着実に歳出削減を進めなければならない。」と続く。
ここで、少し国家のスリム化の狙いと方向について述べておきたい。国の地方支分部局の再編は、道州制に連動するが、その実際は、第一に国民生活に直接の関係をもつ社会保険庁や職安などの福祉国家的なものを支えている施策についは、大胆な「民間化」「民営化」を志向し、第二に、これまでの土建国家的=開発主義的国家の側面については、利益政治を助長するような日本経済にとって非能率的なものは大胆にカットして、ある程度は地方に「分権」して効率化し、統制権は国が握るという方向になるだろう。
我々が政府のスリム化を論ずる場合、一番ムダで危険なのが日米安保や軍事費に係る莫大な費用である。これを前提として、国民の生活と権利=福祉国家的な要素は一定の効率化を含めつつも、「国力」をあげて擁護すること、そして、土建国家的な要素については、雇用や産業の振興を念頭におきつつ、大胆にムダを削減するという姿勢が必要であろう。
●さて、地方分権とか「地方の自由度」などと言っても、所詮、小学生に必要もない英語を教えたり、地域に「密着」して道路工事を行ったりという程度のものしかでてこない「金太郎飴」ではなにもならない。
在日米軍の再編問題で、いやでも明らかになったが、地域の住民が反対しようが、拒否しようが、日本の国土は「全土基地方式」である。住民に「身近な(身近すぎる!)米軍機の大騒音や、米兵の犯罪」などが、自己決定で解決できず、米軍の決定=「タコ決定」になるわけである。身近にありながら、「最も遠い」「自由度」なのである。名護市や岩国市の住民の「自由度」に注目すべきであろう。
こういうことは別に例外的な話しではなく、ごく日常的な風景である。地方政治や地方自治の貧困と一体の「自由度」「自己決定」を「受益者負担で」という、なんともつまらない議論が落としどころなのである。
●さて、そこで、やり玉に挙がっている地方交付税はどうなるのだろうか。
「現行の地方交付税制度は、不足額を交付する仕組みとなっているため、自治体の歳出削減を促す仕組みとなっておらず、地方財政の規律を確保することが困難となっている。地方自治体の歳出削減努力を促すため、地方財政計画の財源保障の対象となる事業については、最もコストの低い自治体の単価を用いて策定し、コスト削減分を地方財政計画に反映させるべきである」
実は、地方財政計画について、これを縮小したいときに、一番てっとりばやいのは、人件費を落とすことである。労働者の権利もなにもすべて無視して、定員や給与をめった切りにすれば、一気に計画の数字は落ちる。
これは、何を意味するかと言えば、勿論、この結果地方交付税額なども減少するが、国民や労働者の生活を政府が主導して切り下げるということなのである。一般的に政府は、民間の労使交渉などには「中立」を保つ必要が言われている。だから、公務員の給与も民間の賃金交渉の結果として定着した、給与をベースにして比較をして決定するシステムが長い間取られてきた。
公務員労働者にスト権や交渉権などがあったも、民間の給与水準を隔絶するような妥結はあり得ないし、むしろ孤立をするだろう。当然に、民間の水準を「踏まえて」交渉を進めることになる。これが正しい姿なのである。政府は、自ら雇用する労働者(公務員)の給与を意図的に引き下げたりしてはならないのであり、これは、民間の労働者から見れば、自分たちの賃金を引き下げる「ダンピング行為」であり、国家権力を活用した「所得政策」「低賃金おしつけ政策」という性格を持つことになる。
●このような「置屋」的発想を示しつつ、「経済成長を促す観点から、科学技術の振興、人材の育成・確保などは重要な政策課題であり、財政の果たすべき役割も少なくない。」と今度は自分たちの話になるとがらっと雰囲気は変わる。あれもやれ、これもやれとなるのである。まさに顔も赤らむ。
外国人受け入れのインフラや子育て支援の強化なども述べられている。これは、ある意味で当然であるが、問題は内容である。
正直言って、法律に反して、残業手当も払わない企業が多い日本で、外国人の労働者を一気に増大させれば、結果は見えている。日本人でも年金は絶望、医療も自己負担が拡大し、保険のきかない「混合診療」などが進められようとしている中で、外国人労働者の保険や年金はどうするのか。企業はどの程度負担をするのか。バス停や電車の駅の案内(言葉を含め)、労働者の教育施設や子どもの教育問題、労働条件の保持と監視、住宅・家賃の水準、医療の負担や保険、給与水準など、問題は山積であろう。現在の日本政府にまともな対応ができるとは到底思われない。ご都合主義そのものになる危険性が高い(というか、必然であろう)。
日本人の賃金と「格差」が生じた瞬間に、日本人同士の賃金の格差も累乗的に拡大するだろう。
●それで、負担の方はといえば、「わが国の法人実効税率は約40%であるが、諸外国は一段の引下げに踏み切っており、欧州主要国や近隣アジア諸国に比べ、高水準にとどまっている」と、法人税や減価償却制度などの税金引き下げのおねだりである。
と、いうわけで、こんなことをやって「歳出入一体改革」が達成されたとして、国民生活はどうなってしまうだろうか。ホリエモンの頭の中には「株とゼニ」のことしかなったが、こういった提言をお書きになっている方の頭も、「儲け」「ゼニ」だけ、ちょっと褒めて「国際競争」だけが詰まっているのだろうか。
歳出入一体改革と余り関係のない話になってしまったようだが、実は、私が悪いのではなく、経団連がわるいのである。こういった強欲な話を歳出入一体改革に引っかけて、実現しようというわけであるから。
つまり、この表題で、真面目に日本の財政危機からの脱却方法や、危機の認識のあり方、など高度な話しを期待されれた方は、肩すかしを食ったということになる。
まだ、経済財政諮問会議における、吉川、竹中両氏の経済成長と長期金利を巡る論戦の方が、レベルが高いだろう。これは、やや専門的なので、後日、解説的な話を書きたい。
●なお、消費税引き上げの問題については、既定事実のように扱われており、これは別途検討することにしたい。

