2005年04月23日(土)
日仏の地方分権改革の展望ー公開報告会①
●4月22日、国際交流基金と自治・分権ジャーナリストの会共催による「地方分権改革を展望するー日仏ジャーナリスト公開報告会」が行われた。この機会に、昨年憲法改正を行って第2次地方分権改革に取り組んでいるフランスの実情を聞きたいと思い、参加をしてきた。
昨年は、日本のジャーナリストがフランスの分権改革に関する調査を行い、本年はフランスのジャーナリストが日本の各地を訪問したのを受けて、三人から「報告」を受けた。フランスからは、グザビエ・ブリヴェ(コミューン・県・州のガゼット編集部)、クロード・ケフラン(デニエール・ヌーベル・ダルザス紙政治部長)、日本からは松本克夫(日本経済新聞論説委員)が報告を行った。モデレーターは、山下茂(明治大学教授)であった。
●ー若干の予備知識ー
フランスは、ミッテラン社会党政権が成立した後、地方分権の方向に大きく転換をした。1982年の「市町村、県及び州の権利と自由に関する法律」(82年法)は、フランスの地方制度に関する画期的な法律であった。
その内容をかいつまんで整理すると
①官選の県知事が廃止され、県議会で選出された議長が執行機関(県知事)となる。
②州が自治体として新たに認められ(設立は1972年)、住民公選の州議会が設置された。県と同様に、州議会の議長が執行機関(州知事)となった。
③国の「後見監督」が廃止され、事後的な行政裁判等を通じた統制のみになる。
現在のフランスの地方制度は、
州region(26)ー県departement(100)ー市町村commune(36780)ー共同体communaute(2500)という構成になっている。コミュノテは、コミューンの広域事務組合のようなもので、都市・農村部とそれぞれの特徴をもって増加傾向にある。1960年代にフランスでは、市町村合併を奨励したことがあったが(もちろん、日本のような強制は行われなかった)、その結果、コミューンは殆ど合併を行わず、広域的な連合体であるコミュノテの創設が多くなった。
州は日本の府県程度の大きさであり、主として経済活動を中心にしている。県の規模は小さく、財政移転(市町村への財政配分)が中心で、独自の役割という点では存在感は大きくないらしい。
コミューンは、9割が人口2000人以下で、1万人以上は全体の2%程度とされている。パリなどは、コミューンであると同時に「県」としての役割を果たしている。都市部と農村部のコミューン及びコミュノテの規模、役割などはかなり異なるのが実相であろう。
以上のように、フランスの地方制度は3層あるいは3.5層と言われるが、住民の世論調査では、州も県も存在している意味があるという意見が6~7割程度はあるらしい(憲法改正前の世論調査)。
●フランス人記者の見た現在の日本の地方分権の様相
フランス人の記者は、5日間に渡って神戸、高知(馬路村、高知市、高知県、伊野町など)を訪問し、総務省や日本の学者との交流も行った。ブリヴェ氏は日本の地方自治について以下のように評価をしていた。
①フランスに比べて、国がシッカリ介入している。財政の改革については、交付税と補助金がベースになると思うが、国の統制が大きいと感じた。
②財政の自主性が大きく失われている。
③自治体のイニシアチブの発揮が難しい。
フランスでは、昨年の憲法改正(8月)によって、地方の財政自主権(税源の自立)がうたわれた。現在、2006年の実施に向けて、国と自治体のコストの評価・計算、収入の計算などを協議機関を設けて行っている。予算・財政の中立性を保障するために、こういった税源の振りわけが議論され、国も地方も緊張した関係になっている。この議論を受けて、来年には、財政法によって、国と地方の財政の相殺が行われることになる。
市町村合併については、国が地方に強制するなど、フランスでは考えられない。コミューンに対する愛着が大きく、60年代に合併を慫慂したこともあるが、失敗に終わって、共同体を設置して広域的な行政(ゴミなど)を行う例が増加したが、こういった契約による広域化の方が自治に相応しいと考えている。
もう1人の記者であるケフラン氏も同様の感想を述べたが、合併を上から押しつける方式には驚いた様子であった。大変にユーモアのある方で、前回、日本に来たときは、大都市部しか訪問できなかった。今回は、地方を訪問して、日本にも人が住んでいない場所があるとはじめて知った、などと語っていた(笑)。
高知県の馬路村を訪問し、「ゆず」を中心にした地域づくりなどを見て、「小さい自治体」のエネルギーについて高い評価を持ったようである。また、神戸の震災復興の住宅・生活再建支援法などへの運動などについて、自治体・住民のイニシアの発揮として評価を述べていた。
●日本とフランス
フランスの第2次分権改革は、フランス国内の出来事というだけではなく、EU内の「地域間競争」などと絡み(州単位の補助金なども創設)、複雑な様相を呈している。ドイツ・フランスがGDP比3%以内に財政赤字を収めることが出来ず財政問題で対立しているほか、雇用・就業問題でもEU内部の自由化への態度について議論が行われている。EU憲法の成立問題を含め、今後の成りゆきは必ずしも楽観できない。
フランスの自治体の中心はコミューンであるが、州、県、市町村を合計した自治体の歳出などは、日本と共通点がある。一般政府(国と地方自治体、社会保障基金)の公共投資(政府固定資本形成)の対GDP比は、欧米の中では高い方であり、2.5%とか3%近い時期もあった。
これでも日本の半分以下であるが、地方に限定すると歳出構造は、かなり近い。日本の場合、『平成17年地方財政白書』(平成15年度分)では、普通建設事業費は約19.7%と前年の22.0%をかなり下回った。しかし、これに公債費の14%を加えると、実質的な投資的経費は35%程度となる。
最新のフランスの統計を、ネットで見つけようと思ったが、ちょっと見つからなかった。自治体の財政は、経常的経費と投資的経費(国の場合は、これに防衛費が区分の対象)に区分され、「当然」にも公債費は投資的経費の中に入っている。投資的経費は「自償性」を重視され、投資的経費にかかわる決算が赤字の場合は、経常的経費から繰り入れることになる。投資支出の比率は概ね35%程度であり、公債費も10%位あるので、日本とそれほど変わらない。
一般政府の固定資本形成が日本より小さいのは、地方政府支出の対GDP比が小さいことに規定されている。
●と、いうわけで、小さな自治体のあり方、道州制のあり方、地方分権のあり方などからみて、日本にとって、かなり参考になる問題を含んでいると思われる。確かに、コミューンは千差万別であり、週に3日程度しか「営業」しないコミューンもある。フランスのような、小さな自治体が多くそれを評価する立場に対抗して、日本の政府は「総合行政体」という「対抗概念」を出してきた。フランスのコミューンは総合行政体とは言えず「大したことはない」という議論である。
日本の場合、「地域自治組織」が自治の発展になにか新しい役割を果たす可能性は少ないと思われる。まして、コミューンと比較するのは無理である。フランスのコミューンの話しを聞いていると、やはり、日本においても、小さな自治体が「大きな自治」に挑戦することが先決のように感ずる。
フランスも日本と同様に、財政調整や補助金があるが(国と自治体の税収は8:2であり、日本よりも国の税収比率は高い)、総合交付金(DGF)になっている。地方財政委員会のような、地方が入った協議機関の存在は、手続き民主主義という点で、日本と比して成熟をしているように思われる。
ただ、日本の場合、地方最終支出が大きいので、これにかかわる補助金を全て廃止して、地方に税源の移譲を行った場合、地方のウエイトは格段に大きくなるし、まして道州制を導入したような場合(国交省の仕事を道州に移管して「地方化」した場合など)は、世界的に見ても異例というほど、地方行政のウエイトは拡大する。
この辺りを、全体としてどう判断をして制度設計を行うのか、地方の力量が問われていることも事実であろう。

