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 2006年11月22日(水)

沖縄県の苦悩と知事選挙

Ⅰ)現地からの報道
 「沖縄タイムス」(11月20日)は、沖縄県知事選挙において仲井氏が当選したことに関し、「経済活性化に具体策を」という社説を掲げた。その内容について、私は概ね賛同することができる。社説の要点を引用すると以下の通りである。
 「新人同士で争われた県知事選挙は、仲井真弘多氏(自民、公明推薦)が前参院議員・糸数慶子氏(社民、社大、共産、民主、自由連合、国民新党、新党日本推薦、そうぞう支持)、屋良朝助氏(諸派)を破り初当選した。
 今選挙は前回分裂した野党が統一し、与野党がっぷり四つの選挙戦を展開した。だが、先行する仲井真氏に対し、激しく追いかけたものの糸数氏は立候補表明の遅れを挽回できなかった。
 ・・・失業率は7・8%で全国の約二倍もある。談合問題で厳しい環境にある土木・建設業界の状況を考えれば、産業構造の改善を含む抜本的対策が求められているのは間違いない。
 有権者が仲井真氏を選んだのは、経済問題を最優先させ振興策をきちんと打ち出すことを求めたといえよう。
 ・・・基地問題が不退転の課題であるのは論をまたない。が、事前調査では関心度が「経済の活性化」52%に対し、「基地問題」は26%だった。有権者の中に、県民意思を無視しても、政府は「普天間」代替施設を強権的に建設するという諦めにも似た受け止め方があったのかもしれない。嘉手納基地以南の施設返還も代替施設の進捗次第、北部振興策もリンク―という日米両政府の狡猾さに地域が取り込まれたと言うこともできよう。
 仲井真氏は「条件次第で基地容認」を訴えてきたが、基地についてはむしろ「新基地は造らせない」という糸数氏の主張が一定の支持を集めたのは確かで、仲井真氏の基地政策がそのまま容認されたと見てはなるまい。
・・・仲井真氏は普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部移設について「V字形滑走路案に反対」し、稲嶺恵一知事が提示した暫定ヘリポート案を支持している。その後は「地元の声を聞きながら解決を図る」と述べたが、「地元の声」とは一体何なのか。一九九七年十二月の海上ヘリ基地建設の是非を問う市民投票で、名護市民の52・8%が反対の意思を示した。
 九六年の県民投票でも89・09%が「米軍基地の整理・縮小」などに賛成したことを考えれば、「普天間」移設は県外か国外にというのが県民総意であり、これが原点だということを忘れてはなるまい。」

 社説の論点を箇条書き的に整理すると、以下のようなことになるだろう。
①選挙戦で糸数氏が敗れた「直接」の原因は、統一が遅れ、選挙の準備が遅れたこと、(それに統一に関わる「しこり」がかなり残った)」にある
②経済振興と基地問題が争点であったが、県民には基地問題での「あきらめ」のような感じもあり、産業構造の転換は待ったなしである。仲井氏に期待をしたのは、この点である。
③これは仲井氏の基地問題への対応を「可」としたわけではなく、むしろ糸数氏の新基地建設反対はかなりの世論を集めた。
④仲井氏は「条件次第での基地容認」であるが、名護市辺野古へのV字形滑走路案に反対し、稲嶺前知事の暫定ヘリポート案を支持するなど、矛盾が大きい。名護市への新基地建設については民意は住民投票で決着がついており、普天間移転は県外、国外へということは沖縄の県民の総意である。

Ⅱ)県民の苦渋の選択を通じて見えてくるもの
 以上の「沖縄タイムス」の社説は、現在の沖縄県民の置かれた立場や感情を踏まえて、上手く整理された評価であると思う。今回の県知事選挙は、基本的には、極めて難しい判断が迫られる「政治的」状況の下で、県民が行った苦渋の選択であった。そこで、その「苦渋」や「情勢」を解きほぐす意味で、結果を見る際に、いくつかのポイントがあるように思う。

 第一は、政策的争点として、基地問題のウエイトがアンケートなどでは低くなっているように見えるが、これは全国の2倍もある失業や、公共事業にたよってきた産業構造の転換などへの住民の意識が強かったことを示している。基地に依存しない「経済の自立」というスローガンは、両者にある程度共通するものであったが、端的にいって「基地がない方が遙かに経済的にも有利である」というシミュレーションなども含めた説得力のある「政策」が必要だったと思う。この点で、糸数陣営そのものに責任があるというより、沖縄の「革新勢力」全体の力量や、観光事業などが中心にならざるを得ない「実態」が重くのしかかったと見る必要があろう。

 第二に、関連して、糸数氏の「敗因」は、上記の「基地問題対産業振興」という構図を止揚するだけの政策、組織的な準備が整わなかったことにもあろう。
 「糸数氏は野党統一候補として革新支持層と、政党「そうぞう」の支援で保守支持層の切り崩しを狙った。初の女性知事をアピールして運動を展開したが、出馬表明の出遅れと人選のしこりに加え、政党間の政策調整の不協和音が最後まで解消できず、敗北を喫した。」と沖縄タイムスの20日の朝刊はのべているが、現地からの声を総合すると、この「しこり」「不協和音」の大きさと、全国的支援のより大きな必要性が共通する「訴え」であったように思う。糸数氏の大奮闘を事実として押さえる必要があるが、気になるのは、マスコミの報道や一部の学者なども述べている、安倍対小沢=自民(公明)対民主という「構図」で選挙結果を捉える視点である。今回、民主党は小沢流の「野党結束=反自民(何でも反対)」がどう国民から評価されるかとか、小沢氏への結集力が減少するのではないか、などという「観測」を行っている。別に、これは「そうなった方がよいという財界などの期待」を表すものではなく(五十嵐仁「転成仁語」)、本来民主党が持っている「矛盾」である。これが継続するかどうかは、日本の大衆運動や労働運動の状況如何であろう。政権奪取を中心に発想しているからそういう「立場=反自民」に立っているわけであり、教育基本法の民主党の「改正案」などは酷いものであり、改憲でも自民と同一の土俵にのる可能性もある点を曖昧にすべきではない。

 第三に、当選した仲井氏の基地問題のスタンスは稲嶺前知事のそれを基本的に踏襲しており、名護市辺野古に予定されている「V字案」をあらためて否定している一方、「ベストは県外移設だが、直ちに県外で見つけ難い中で県内の選択肢はあり得ないことではない」と県内移設を容認する考えを示している。
 国と県、県と普天間基地の早期閉鎖、県と名護市の矛盾などを引きずっている。「政府はシュワブ沿岸部移設を条件次第で容認する姿勢を示唆する仲井真氏の当選を歓迎し、米軍再編の関係自治体に交付金を拡充する米軍再編推進法案を来年の通常国会に提出する方針を固めた」(沖縄タイムス)といわれているように、県民に更なる苦しみを与える路線になっている。
 沖縄タイムスの社説が述べているように、民意は既に明確であり、「普天間」移設は県外か国外にというのが県民総意なのである。この点は、いくら強調しても強調しすぎることはない。

 第四に、選挙戦そのものというより、選挙をめぐる「情勢」の問題と言った方が良いかも知れないが、選挙の直前に安倍自公内閣は、教育基本法「改正」案の委員会における強行採決を野党抜きで行い、参院本会議への提案も強引に行った。こう言った点について、一部のマスコミは、沖縄の選挙に勝利する確信があったために行ったと述べていた。この当否について、ここで明言することはできないが、少なくとも安倍内閣の分析として、教育基本法問題が沖縄の選挙を「左右」する状況は少ないと見ていたことは事実であろう(五十嵐氏が述べているように、教育基本法の強行採決の報道がマスコミのトップになっていなかったというような問題も「多少」は影響があったと思うが)。
 一般的に見て、国政をめぐる最重要の「対決法案」(と言っておくが、実際に対決しているかどうかは微妙な問題が多いことはいうまでもない)について、国政の今後を左右する選挙の直前に行うことは、かなりの冒険であることは常識であろう。
 こういった状況をどう見るのか。沖縄における選挙=国政の争点において、教育基本法や様々な福祉・社会保障を切り捨てる小泉構造改革以来の流れが、投票行為との関係で、明確に意識されない状況になっていたと見る必要があるのではないか(平たく言えば、強行採決しても選挙に致命的な悪影響を及ぼさないと分析した)。

 第五に、このコロラリーであるが、候補者統一という偉業を達しながら、その時期の遅さが、決定的に選挙結果に影響してしまうという、日常的な大衆運動の「弱化」の問題である。これは沖縄に限らず、日本全国に見られる問題であろう。例えば、滋賀県で嘉田さんが勝利したのは、立候補は直前であったが、様々な環境保護、ムダな公共事業批判、琵琶湖空港反対、市町村合併問題における住民の様々な運動などが、広範に存在し、これが選挙運動の「遅れ」を補って余りある結果をもたらしたと見ることができる。
 労働運動における選挙活動のスタイルも、滋賀県では住民投票の要求や、裁判闘争への積極的参加など、地域と密着したものであった(この点では、本気で褒めておきたい)。選挙になると、職場の「活動家」は、組合運動を「ペンディング」にして、独自活動に入ってしまい、結果として組合員は最も政治的に重要な時期に「放置プレイ」になってしまうというようなスタイルが、残念ながら全国各地に見られる。
 世論結集の「環」を明確にしつつ、日常的な大衆運動・住民運動の焦点を、そこに絞り込んでいく「戦術」に長けていく必要を強く感じる。私の「持論」は、選挙の時こそ、大衆運動をいつもより「旺盛」に展開する必要があり、組合員同士の「政治的論議」を活発化させる必要があるというものである。

 第六に、今後の問題であるが、「米軍再編推進法案には、再編の進み具合に応じて交付金を拡充する「原発方式」の再編交付金や、基地負担が重い名護市などのインフラ整備を支援する振興策に加え、基地返還で影響を受ける基地従業員の雇用や跡地利用対策も盛り込む。」とされている。なりふり構わぬ破廉恥を地でいったようなやり方である。沖縄の米軍基地の存在は、アメリカ国内では殆ど知られておらず、まして基地の被害などは全く理解されていない。
 宜野湾市などが、努力してアメリカのマスコミへの意見広告などをしてきているが、まだまだ初歩的なレベルである。アジアへの「窓口」としての沖縄には、アジアの平和に通じるメッセージを広く、アジアから世界に伝える説得力がある。選挙には敗北したが、これを上回る大衆運動と、国際活動、日本全体の世論を動かす平和への希求(運動)が重要であり、それが仲井県政の行き詰まりをもたらし、要求実現への一歩となる。

 最後になるが、今回の選挙は自民対民主などという矮小な問題ではない。米軍再編という世界的なアメリカの軍事戦略に影響を与える、国際レベルの選挙であった。現代日本の支配層の必死の取組が3万7千票の「差」となってあらわれたのであり、そこまで追い込んだという側面も正確に見ておく必要がある。
 仲井県政の前途は暗い。全く暗い。何の展望もないと言って過言ではないだろう。運動、政策、選挙のすべの面において、日常的に彫琢していく方向を追求していこうではないか。

 追記。
 産業振興問題のそれぞれの候補者の政策の点検や分析は、今後の課題としたい。大変に重要かつ困難な問題である。今回、重視して述べたのは、選挙に当たっていつも感じることなのであるが、「統一」を強調する余り、その背景にある「大衆運動」「労働運動」などとの関係に目が行かなくなり、兎も角、自己主張を過度におこなわず「統一」を優先せよ、と言う議論が大きくなることである。
 もちろん「統一」はどれだけ重視してもしすぎることはない程、重要であるが、これはテクニックのレベルの問題ではない。それに値するだけの「運動」があってはじめて、統一が活き、勝利に結実する可能性が増加するということがより重要なのである。
 日常的に産業政策や基地に関する合意形成の運動が希薄化するならば、「統一」の効果はそれだけ減少する。当たり前の話しである。まして、今回の選挙を民主党の「野党統一」戦術の効果と見るなどは、極めて皮相な見方である。小沢氏の影響力が党内でどうなるかなど、我々には一切関係がない。
 あふれ出る「感情」、「大衆運動の熱気」がオーラのように沖縄を取り巻いているかどうか。ここに勝負はあるのである。基地と経済の関係は技術論ではないのである。選挙闘争と大衆運動の関係は、政治学でなくても、「常識」であるが、その「常識」に沿って、今回の選挙も総括すべきである。これが今回のメッセージである。

名護市辺野古から見たキャンプシュワブ