2005年02月04日(金)
『成果主義と能力主義の違い』の「間違い」
『ガバナンス2月号』(ぎょうせい)に行政学の専門家が「成果主義と能力主義の違い・・・一周遅れの役所」なる短文を書いている。これは「市民の常識・役所のジョウシキ」というコーナーで、1頁だけのものであるが、あまりに酷い間違い(学者のヒジョウシキ?)に唖然とした。
ちょっと引用しておこう。
「最近サラリーマンに話題になっている『虚妄の成果主義』(日経BP社)、『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』(光文社)、『隣の成果主義』(光文社)の3冊を続けて読んだ。そこで、おぼろげながらわかってきたのは「成果主義」と「能力主義」は全く異なるということだ。」
ここまでは、別に問題ないが、行政学の教科書を見ると官僚制や公務員制度に関する記述が必ずあり、職階制や職務給について論じている。この先生は職務給について、学生になにを教えてきたのだろうか。
公務員制度を論ずる際に、メリットシステムなどの「科学的人事行政」について教え、職務分類による職階制度や職務給がメリットシステムの構成要素になっていることを教えるはずであろう。
成果主義と能力主義の違いがわからない状態で、職務給の賃金制度としての性格を教えられるハズはないと思って、先に読み進んだ。
さて、続けて引用。
「・・・役所の方は一周遅れのようである。法制度上のタテマエは確かに『能力主義』だ。例えば定期昇給制度は、12か月の経験が能力をランクアップさせるという前提に基づいている。しかし、いつも誰もが同じように能力アップするという『運用』では『能力主義』にさえもならない。ただし、一周遅れにはメリットもある。『成果主義』と『能力主義』との間で混乱する企業群の教訓を生かせるかもしれない」とのことである。
法制度のタテマエは「能力主義」?
タテマエというのであるから、職務給のことを指していると思われる。厳密にいうと、自治体の場合、人事委員会がある自治体は「職階制」により、それがない場合は、「職階制」の規定がない。この点、国と自治体の制度は異なる。
自治体の給与については、「職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。」(地公法24条3)とある。
つまり、地方公務員の給与は「生計費」と「民間を含めた他団体の給与」「その他」を「考慮」することになっている。ここから、職務給と言っても(もちろん、職階制の規定がない自治体の場合は一層)、生計費が給与の位置づけに埋め込まれているわけである。
さて、職務給とは「ポスト」に給与をつける制度であり、職能給(能力給)のように「人間」に属人的に給与をつける制度ではない。特定の「職」にある人間をつけることを「任用」というが、これは能力実証主義によって、そのポストに相応しい能力を身につけた「人間」を当てる。これはメリットシステムそのものであり、「資格任用制度」などと言われる。いわゆる「成績主義」である。この場合の「能力」とはあくまでも「ポスト」に相応しいかどうかの「基準」である。
能力主義賃金というのは、現在の日本で代表的な職能資格給など、ポストではなく、人間に給与を付けるものである。なぜ日本ではポストではなく人間に給与を付けているのかというと、ポストに給与をつける制度においては、人事異動などは「同等のポスト」間以外は不可能になるからである。ここでは、恣意的な人事異動などは当然不可能になる。
もっとも、職能給は職務給から「派生」する。特定の職務を遂行する「能力」に着目すると、ポストから人間に視点がうつる。実際には、かなり微妙な問題を孕むが、制度的には、全く別のものとなる。能力等級制度(今回の公務員制度改革の「目玉」)では、特定の職務を遂行する属人的な能力に値札をつけるように、職務給を「歪める」のである。職階制は廃止するというから、職務の分析や分類などは厳密に行わないようになる。
というわけで、法制度のタテマエは「能力主義」ではないのである。では、定期昇給の性格はどうなるのだろうか。
経験が能力をアップするということは一定の事実である。この場合、年齢ではなく「経験」ということが決め手である。一般的に年齢がアップすると経験もアップすることが多いが、中途採用などを含めて考えると必ずしも両者は一致しない。年齢による給与のアップは「生活給」的な考えであり、経験による給与のアップは「仕事給」的(仕事に給与をつけるーポストと近似的)な考えである。だから、職務給の下でも、同じ等級の中で、経験によって給与は増加して行くような「給料表」がつくられている。より高いレベルの仕事を行っていくということでもある。
年功賃金と言われるものは、基本的に「生活給」であるが、定期昇給をなんの査定もなく、全員に実施すれば、年功賃金に接近する。しかし、定期昇給のみではなく、昇進や昇格に厳しい「査定」を導入すれば、それは職能資格給に接近する。
現在の公務員給与の「タテマエ」は職務給であるが、実際には、定期昇給や「一職二等級」などによって(また、自治体職員の場合は、生計費そのものが給与にシッカリと位置づけられている)、年功賃金的なものにデフォルメされてきたわけである。それが、今次の公務員制度改革によって(能力等級)、民間の職能資格給に接近するということである。
これは、年功賃金に厳しい「査定」を導入することで、かなりの程度実現されるが、そのほかに、等級制度の「体系」をどうするかに関わる。昇格そのものの「資格」を制限すれば、給与の上がり方は年齢に比して「なだらか」になるわけである。
というわけで、この「先生」のお話では、現在の公務員制度改革において、公務員給与を一体「どういうもの」にしようとしているのか、全く不明になってしまう。多分、能力等級制の意味については、全く理解できていないのではないか<合掌
因みに「成果給」というのは、仕事給に分類され、職務給に「付加」できるものであるが、もちろん、能力給に「成果給」を部分的に付加することもできる。これが日本的職務給と一般的に言われているものである。

