2005年04月27日(水)
パブリックビジネス狂想曲②
【以下、未定稿】
●4月25日に、大阪で「パブリックビジネス・リポート」経営セミナーという催しがあり、参加をしてきた。
これは、日経BP社「パブリックビジネス・リポート」と関西ニュービジネス協議会が主催をし、内閣府が後援をするという形式のセミナーであった。
さて、セミナーでは太田大阪府知事が挨拶を行った。「関西の経済が実感をもって回復している。今が大切な時期であるから、変革も必要。行政と民間のパートナーシップ、府民と行政と企業の力を総結集して、民間の力を府政にいかすPPPを進めている。大阪は民の力でつくりあげてきたまち。総務・財務などを総務サービスセンターにして、民間活力も導入して400人の人員削減も行った。これからは、官も民もないボーダーレスの時代になる。」と「規制改革・民間開放50兆円市場を狙え!」というセミナー・スローガンを背にして、熱弁を振るった。
今回は、このセミナーの内容について、ポイントを紹介しつつ、市場化テスト問題の論点について検討して見たい。
●基調講演を行った日本ニュービジネス協議会連合会会長の志田勤氏は規制緩和・民間開放のメリットを三点あげた。
①国民に利便性を提供する。
②行政のコストダウン。
③企業にビジネスチャンスをもたらす。
このうち、③に絞って講演をされた。100年に一度のビジネスチャンス、三回目のチャンスであると述べていた。
第1回目は、明治時代に新しい政府ができて、新しいルールができ、三井・三菱・住友が発展して日本を安定化させた。
第2回目は、第2次大戦後であると。敗戦の下で、ソニー・ホンダ・松下・トヨタなどが輩出した。
第3回目が現在であると。今、日本は1000兆円の借金で1人当たり1000万円になる。こういう時が変革の時である。構造改革で小泉内閣は頑張っているが、思い通りに行っていない。しかし、国と地方の一般歳出の合計は114兆円になり、このうち、40兆円位が民間の仕事になってくるだろう。志木市では、1400の業務のうち、800をアウトソーシングできると言っている。総務省は特区で16兆円とも言っており、これらを合計すると50兆円以上になる。規制改革を行ったことによって10数兆円の新しいビジネスが生まれる。
●「50兆円というのは具体的数字です」と最初に言われたので、その「数」の計算を間違えないように聞いていたが、辻褄はどうなっているか最後まで不明であった(笑)。ただ、わかったことは、国と地方の予算のうち、既存のものも含めて半分位を民へのアウトソーシングとして確保する(現在でも公共事業などは、ほぼ全部が民間への発注になっているので、どのくらい増加するのか不明だが)。それから「規制緩和」で新たなビジネスに結びつくものが10数兆円あるということだ。
そこで、本題の市場化テストについてであるが、当日は、内閣府=規制改革・民間開放推進室の井上宏司氏が「市場化テストの最新情報と参加方法」という講演をされた。
どちらかというと「参加方法」に重点があり、制度や法の枠組みについて、検討している内容を聞けるかと期待をしていたが、これについては肩すかしを食らった。
3月25日に規制改革・民間開放推進会議で確認され閣議決定された、市場化テストの本格的導入に向けた「基本方針」の概要は以下の通りである(井上氏のレジュメによる)。
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①国の事業について先行実施(併せて、先進自治体が自発的に市場化テストを実施できるよう必要に応じ検討・環境を整備)
②民間提案を受け付け、政府において可能な限り幅広い対象事業を決定
③法的枠組みを含めた制度の検討(官民競争を前提とした入札制度、関連する規制改革等)
④民間事業者が入札への参加を検討するに足る必要十分な情報の開示
⑤競争条件均一化の確保のための監視機能の整備(中立的な第三者機関の設立)
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官業の民間開放については、これまでもPFIや指定管理者、特区制度などがあり、大きな民間市場を形成しつつあるが、市場化テストはある意味で、これらの持つ「限界」を突破する手法として期待がされている。
PFIは、公物管理法との関係で、道路、河川、港湾、空港、都市公園、下水道等の場合、管理者が国・自治体等となっており、管理運営において行えない事務が存在する。
指定管理者制度は、株式会社に門戸を開いたことなど、大きな意味があったが、国等の施設が対象になっていないし、PFIと同じく、公物管理法との調整も出来ていない。もちろん、「抜け道」はかなりあるが、原理的な限界を持っている。特区制度は、民間が認定申請を行うことができない。
●そこで、市場化テスト(官民競争入札制度)であるが、国が先行するものの、自治体についてもその実施が可能となるような環境整備が謳われている。現時点では、大阪府が「大阪府市場化テストガイドライン(素案)」をパブリック・コメントに付しているが、こういったものも、恐らく特区やその他の「例外規定」によって実施が可能となって行くことが想定されている。
一番大きな問題は、対象が「検討対象は・・・全ての官業」(レジュメは、可能な限り幅広い対象事業を決定)となっていることである。検討した結果、対象にしないこともあり得るので、井上氏のレジュメでは、「可能な限り幅広い」という表現になっていると思われる。
これまでの、官業の民間開放は、官民の役割分担論などをベースとして、かならずしも「行政の守備範囲」ではない事業(公の施設の管理なども含め)を民間に開放するという「論理」が中心であったが、市場化テストは全く異なる。つまり、「行政の守備範囲」そのものを「競争入札」の対象とするわけである。これが「全ての官業」の意味する内容である。
同時に、日本的特徴と井上氏は言われたが、民間提案を受け付けることの意味を考える必要がある。民間のイニシアはPFIなどでも発揮されることになっているが、これとも異なる。
具体的に言って、大阪府で実施された総務・財務サービスのアウトソーシングなどに見られるように、これは部局を超えた共通の事務事業である。つまり、市場化テストの対象となるのは、「官」の都合で切り取った特定の事業や施設の運営というようなものだけではなく、各省庁・各部局を横断した共通業務をはじめ、複数の部局にまたがる仕事を総合的に入札するような事態が想定されるわけである。民間のノウハウが生かされる分野があれば、既存の「官」の組織機構などは、無視して構わないことになる。
●そこで、法的な枠組みがどう設定されて行くのかが問題になる。
官民の競争を前提にした入札制度と言っても、どの分野をどういった方法で比較し「勝敗」を決めるのかということである。
民間から提案があれば、まずそれを阻害する公物管理法等をはじめとする様々な規制に関して、それを外すことを検討する。つまり、規制が必要であることを「官」の側が証明できなければ、規制緩和につながって行くことになる。ここで、指定管理者制度などの「限界」が、まず突破されることになる。
そして、税の徴収などの業務が民間に開放されるような事態になると、官民の比較はどうなるであろうか。税の徴収に関して、例えば、東京都などでも、中心区(千代田、港、中央など)での徴税のコストと奥多摩などの徴税のコストは全く異なる。どの部分を切り取って、競争入札をさせるのかがまず大きな問題になる。また、徴税業務の中には、様々な統計業務や、相談業務、調査業務などが存在し、「主税局」として一体的な業務を行っている。
つまり、徴収部門だけで比較することは適切ではないし、また、事務所の立地によって、アンバランスがある。これは、現在、国の市場化テストのモデル事業とされているキャリア交流プラザなどにも当てはまる。
全国的に展開している行政施策を地方別にコスト計算をすれば、参入する場合の「損得」はかなり異なってくるのは当然であろう。
民間の提案を受け付けるということは、一見合理的に見えるが(民間のノウハウを生かすという点や、官が勝手に競争条件を整備しない)、行政をどの部分、角度から「切り取る」のかを、自由に設定できることになる。
●こんなことが自由におこなわれたら、行政の存在そのもののが意味をなさなくなるだろう。そこで、競争条件の均一化等に当たって、第三者機関などの「中立」的な判断・監視が必要だし、情報公開などが求められることになる。
しかし、実際問題として、行政の公的責任の全うなどが議論の対象になって行くかどうか大いに疑問である。
これまで、行政の責任範囲についての議論は、「公権力の行使」論が行政側が依拠する「最後の砦」であった(乱発気味ではあった)が、ここにも民間開放の立場から、大なたが振るわれようとしている。行政の私人への委任などは、これまでも色々な分野で行われてきたが、これを拡大しつつ、「公権力の行使」の内実を形骸化させる方向が強まっている。これは、もちろん、吟味が必要であり、行政による「不当な独占」が行われて来なかったとは言えない部分もあるだろう(いずれ、具体的事例で検討をしてみたい)。
行政サービス=公共サービスの中核的部分に切り込むためには、「公権力の行使」という「自在」な言葉を「駆使」した「行政による独占」を排除しなければならない、というシビアな問題意識が伺われるのである。
●市場化テストの意味は、これまでに触れただけでも、相当なものであることが理解できると思われる。これは、「官民の協働」とか「公民の協働」、民間活力の活用といった「範疇」のものではなく、「行政の民営化」「行政の民間化」そのものと言って差し支えないものである。「企画と実施」の分離という、非現実的・牧歌的議論も超えている。行政改革・財政改革・地方分権は市場化テストというフィルターを通じて、新たな官・民の融合をもたらすだろう。それは、従前の贈収賄の発生や「口利き」といったケチな「癒着」ではなく、民主主義のブラックボックス化を伴った、国家とグローバル資本の融合過程であろう。
ただ、私自身は、市場化テストが順調に進むと見ているわけではなく、むしろ、その本質故に摩擦も大きくなると思っている。また、国民の目からみても、色々と疑問が起きてくるだろう。市場化テストの論理は、行政の民主的・公正な執行や、安定性・継続性・公平性などではなく、民間が参入して「儲けがある」か否かがメルクマールとなる、あからさまな市場原理の世界になる。そして、どこに「儲け口」があるかは、民間の提案・主導によることになる。
当然、行政サイドのリスク管理も発展し、欧米並の「契約」社会の到来も現実味を帯びてくるだろう。既に、自治体を相手にした「保険業務」も開始をされようとしている。
こういう中で、軍事や警察、刑務所なども「民営化」が進行している。憲法を基軸とした公共性原理を対抗軸にできるかどうか、国民の力量もまたテストされていると云わねばならないだろう。

