2005年09月23日(金)

病膏肓に入る=「官業の民間開放」ー市場化テスト推進論

●筆者は「パブリック・ビジネス・オンライン」というメルマガを購読しているのであるが、総選挙の結果がでるとまもなく送られてきたものに「小泉圧勝!『官から民へ』の流れ一気に加速」なる見出しがついていた。

 内容をみると「もうひとつは、『公務員の身分保障の見直し』である。直截に言うならば『公務員をリストラできる』可能性を現実的に示すこと。全国の特定郵便局長が『民営化反対』の強烈なのろしを上げたのは、まさにこの点があるからだ。『民営化によって競争にさらされると、儲け主義に走ってサービスの質が低下する』『全国一律のユニバーサルサービスを維持が維持できなくなる』といった反論は、深層ではすべて『公務員のリストラ不安』に起因している・・・」と。

 小泉自民党「大勝」で、どういった人たちが「はしゃいで」いるのか、よくわかり、大変に啓蒙されたのであるが(苦笑)、もうこういった次元の話しになると、「官と民の効率の比較」なども超越し、「官業撲滅」の雰囲気である。官業を支えている「公務員のリストラ不安」(公務員は雇用の安定を願っても、批判の対象になるようであるが)などの既得権を剥奪し、「公務員のリストラ」がパブリックビジネスの要諦だと言わんばかりである。

 呆れて読んでいたところに、『日経グローカル』(2005・9・19)が送られてきた。「日経グローカルシンポジウムー官業の民間開放が地域を変える」というシンポジウムの記事が目に留まった。実は、これには、参加しようと思っていたのだが、イギリスからの帰国の日なので、参加できなかったシンポジウムである。
 筆者は、日経グローカルのシンポや記事をいつも大変に参考にしており、学ぶところも多いのだが(批判ばかりではないことを、一言述べておきたい)、今回のシンポは正直いって、あきれかえった。「ここまで言うか~」という感じである。

●さて、前置きはそのくらいにして、何を言っているか、紹介をしておきたい。基調講演は三本で、①中田宏横浜市長②太田房江大阪府知事③宮内義彦オリックス会長ー同時に規制改革・民間開放推進会議議長にいつの間にか就任<笑い)である。

注)この宮内義彦氏がどういう人物で、どういう仕事をしているのかについては、中田安彦『ジャパン・ハンドラーズ―日本を操るアメリカの政治家・官僚・知識人たち』(日本文芸社、05年5月)を読むとよく分かる。詳細は、この本を読んで頂くとして、ここでは、小泉首相の「お友達」ということで、読み進めてほしい(笑い)。

 前のお二人の話は、省略して、宮内氏の話(『日経グローカル』の要約)を紹介しておこう。市場化テストの導入にご熱心なことはよく知られているが、曰く。「規制改革会議で議論している中で、あきらかに国ではなく、民間に任せたらいいではないかというものがある。これを担当している省庁と個別に交渉するが、猛烈な抵抗に遭い、ありとあらゆる理由で官がやらなければならないと言われる。担当省庁がイエスと言わなければ民間にまかせることができない。個別の民間開放は、大変、難航しており、難攻不落といえる状況だ」。まあ、ここでは、ありがちな官僚批判であり、省庁の「既得権擁護」がケシカランという「聞き慣れたフレーズ」のレフレインである。国民が「ナットク」できるような具体例を一つ、二つあげていただければ、わかりやすいのであるが、そういった「かったるい」ことは避け、要するに「省庁の抵抗」を強調しているわけである。

 次に、「そこで、個別に議論するのではなく(おひおひ!、個別の議論も聞いてないよ~)、全省庁、国のやっている事業を横串に見直す方法を考えた中で、でてきたのが市場化テストだ。(なるほど、よく分かりました<笑い)市場化テストはすでに諸外国で行われており、実績もある。(イギリスではもう終わってますが・・・)そして、日本のように官製市場が大きな場合は、より大きな効果が期待できる。(日本の政府支出の対GDP比は、先進国のなかでは、小さいのですけが・・・)」と決めつける。

 そしてトドメ。「市場化テストで一番重要なのは、官の事業を民間と同じようなベースに乗せて(そう簡単に「同じベース」に乗らないですよ・・・)入札することだ。官、独立行政法人などが行っている事業をそっくり民間と競わせること(「効率」だけで?金銭ベース?)で、官のやっている全ての仕事を効率のいい方に任せていく。そのためには、横串をさせるだけの強い法律を作る必要がある(自治体にも強制しちゃうんだ?)。現在、市場化テスト法推進室(ママ)ができて、法律の立案にはいっている。この法律が成立すれば、官業の民間開放は画期的な形で進むだろう。」と。

●「官業」の能率が高くないという評価も、イギリスなどでは、客観的なものとしては認知されていないようだが、まあ、確かに能率の悪い部分もあるだろう。
 だが、確認をしておきたいことは、現在国や地方自治体で合計1000兆円近い累積債務があるのは、別に、官業の能率の低さではなく、民間大企業や一部の政治家のために「能率」よくセッセと「ムダな」公共事業を行ってきた「ツケ」である。
 つまり、官業が「民間大企業」や「政治家」の食い物(いまでも、宮内さんなどは、セッセと食い物にしているのだが<苦笑)にされたためである。食い物にしてきた結果、借金が大きくなって、これをリストラしなければならないという論理で、更に食い物になる。結局、官業はなくなるまで、「民間大企業」(「民」と言ってほしければ「民」というが、住民には責任がないので、「民」一般ではなく、「大企業」だとハッキリ言っておいた方が紛れがない)の食い物になる「悲しいサガ」だということなのか(合掌。
 国家や自治体も「国民」や「住民」の食い物になるなら、まだしも本望なのだろうが・・・

 『自治と分権』第21号に「自治体再編の新展開ー広域再編と市場化・民営化ー日本型「市場化テスト」と対抗軸」という、拙論を書いたので、より「真面目」な議論はこちらを参照して欲しいが、宮内さんが言っているようなことを、完全に実施した国は一つもない。言うところの横串的市場化テストなどは、もっとも「日本的」「小泉的」「宮内的」なものなのである。個別に議論するのが「面倒」だと、ご本人が言っているわけで、まさにその通りなのだろう(苦笑。

 これまで、行政の民営化、民間化については、行政の「守備範囲論」とか、公務員の範囲論とか、色々と問題はあっても、「行政とはどういうものか」「何をしなければならないのか」という議論が、「前提」として存在した。もう、面倒だから、こういう議論を全部省略して、一網打尽にしよう(横串論)、効率だけで比較しようということらしいのである。

 この講演と同日行われた「シンポ」で、足立区の区民部長が次のように述べている。「市場化テストは小さな政府の議論とつながっている。小さな政府をもっと圧縮して「極小の政府」を考えた場合、何が残るか。まず戸籍と税金。後は高齢社会だから国民健康保険と年金ぐらいは残るのではないか。このあたりが最後まで残るなら、思い切ってそれ自体を市場化テストの対象にしてしまえば他の分野は急速に進むだろうという発想で、足立区は今回、内閣府の方へ市場化テストを行うための規制緩和の提案を6つほど出した」そうである。早く、役所を辞めて、「民」になったらどうかと思うのであるが(笑い。

●ここで、確認しておく必要があることは、「官から民へ」というシフトは、あくまでも「官」=国家や自治体が行うことである。上は小泉首相(=これも「官」である)から下は、上記発言者のような「小役人」まで含めて、やはり権力を持ったものが「上から」民間化するのである。市場原理に任せておいて、官から民へという流れは、法治国家においては不可能なのである。それならば、法治国家(ここでは、「法による支配」の意味)のあり方は、市場原理なのかといえば、そんなことはない。
 
 少なくとも、議会制民主主義や地方自治など「統治」の民主主義の原理を前提にしなければならない。
 オリックスの会長など「ごくごく一部の利害関係者」が、「公的な顔」をしつつ、政府に「官製市場」の開放を迫る根拠はなにか?こういった、民主主義的な手続きの「欠損」を疑問に思わない人間が、住民本位の行政を推進できるハズもなかろう。

●今回は、市場化テストが、官製市場開放論者にとって、どのような「意味」があるのかについて「確認」をするために、「日経グローカル」のシンポを少し紹介した。これからは、イギリス調査の結果や市場原理主義批判をさまざまな側面から展開して行きたい。