2006年01月29日(日)

耐震偽装事件の深層②ー「小さな政府」を考えるシンポジウム

●1月26日に、全労連「『小さな政府』=大きな国民負担に反対し、もうひとつの日本、安心できる公務・公共サービスをめざす闘争本部」が開催した、上記シンポジウムに参加したので、その感想を含めて、この間の耐震偽装問題の「発展」について見解を記しておく。

【全労連のシンポジウムの様子】


http://www.jilg.jp/blog/blog.cgi?time=1133097469&id=prince&mode=disp&category=&writer_all=&category_all=&dispmode=
【これは、備忘録に書いた「耐震偽装事件の深層①」】

●昨年11月27日に「耐震偽装事件の深層①」を備忘録に書いた。このときは、まだ事件の発覚後1週間程度しか時間がなかったので、十分に掘り下げたものが書けなかったが、基本的な視点としては、それほど訂正をする必要を感じていない。
 行政の民間化の「帰結」として、この事件を位置づけることには「意識的」に慎重な立場を表明しておいた(もちろん、ホリエモンの事件といい、この耐震偽装事件といい、行政の市場化・民間化と密接に結びついた問題であるが、その「検証」の姿勢を厳密にしていく必要を述べたものである)。

 なお、「メルマガ030号」でこの問題を取り上げたことがあるので、併せて参照をして欲しい。

●全労連のシンポジウムは、「官から民へ」で国民の安全は守られるか―耐震強度偽装問題を検討する―と銘打ったものである。
 シンポジウムは、永山日大教授のコーディネートで、建設政策研究所:辻村専務理事、毎日新聞社会部:大平記者、東京土建:清水書記次長、自治労連八尾市職労:岩狭書記次長、日弁連消費者問題対策委員:河合弁護士の5人がそれぞれの立場から、見解や対応を述べていた。

 辻村氏は事件の背景と原因について「建築基準法改正」前後の「建築・住宅政策はその公共性を投げ捨て『世界的大競争の時代に突入した』として建設・住宅・不動産大資本の利益確保を最優先させるさまざまな規制緩和政策導入を打ち出した」と述べていた。

 建築基準法改正についても、①建築基準の性能規定化など、「自由度の高い」建築基準体系の構築、②建築確認・検査事務等の民間企業等による実施など、民間企業・団体等を活用した執行体制の整備、③工事の中間検査・完了検査の実施など実効性確保のための措置、などが行われたことを紹介し、コスト切り下げ競争の中で、「設計・工事・検査」体制が「グル」状態になってくる危険性を指摘していた。また、それまでの「仕様規定」から「性能規制」に転換したことも、偽装発見の困難さに結びついていることを強調していた点が注目される。ホリエモンは「人の心も金で買える」と述べたが、建設業界では「安全性は金で買える」と言われているそうである。

 毎日新聞の大平氏は、「そもそも偽装ということ自体が、何故可能だったのか」と問い、コスト削減へのプレッシャーに対する構造設計士の立場の弱さを指摘しつつ、ERIやイーホームズが「見抜けなかった」原因がどこにあるのか、「まだ、よくわからない」と述べていた。被害者救済問題に関連して、家の価値がなくなってもローンを組んだ銀行の責任はどうなるのかと述べていた。また、阪神大地震の教訓が生かされておらず、アメリカのロス地震後の建築確認制度の厳しさと比較した「甘さ」が指摘されていた。この点については、後ほど関連する問題について述べたいと思う。

 東京土建の清水氏は、コストダウンを至上命題とする業界の厳しさ、労働条件などおかまいなく「競争」する問題点を具体的に告発していた。下請け、労働者など「弱いもの」に容赦なく、しわ寄せが行く。
 また、建築物についても、内装はバレるので手を抜けないが、「構造設計」に全部しわ寄せが行くことを強調していた。下請け業者の車の「駐車料金」を取る輩までいるそうであり、土地の買収から売るまでが「3ヶ月」というすさまじい建設業者もいるそうである。「安い、早い」が最大の売りになる競争におけるモラルハザードの指摘には、「しばらくは、家を買ったり建てたりはやめた方がよさそうだな」などと、つい思ってしまう迫力であった。現場の施工管理の「独立性」の強調は、その通りだと痛感した。

 八尾市の岩狭氏は建築主事であるが、建築基準法改正以来の建築確認事務の実態を「これでよいのか」と04年から職場で議論していた途中で、今回の事件が発覚したと述べていた。職員も増やさずに「中間検査」を入れたのは、民間開放のためだったと述べつつ、今回の事件については、「単純に、民間開放の帰結とは考えていない」とのべ、かなり慎重に議論をしている状況を感じた。法的規制を加えれば民間でも可能かもしれないが、それだけでよいのかと問う姿勢には共感を持った(後で、③で関連して述べる)。
 公共性を維持する規制の在り方、専門性を持った職員・民間に負けない専門性の維持の強調には、危機感が出ていたように思う。

 最後に、日弁連の河合弁護士は、阪神大地震における6400名の死者の8割が「圧死」であったことを述べつつ、誰にこの法的な責任があるのかと問うていた。最高裁の横浜裁判(メルマガを参照)では、民間がやったことは公共のやったこととイコールになるとした。横浜市も当事者になるし、民間の過失は行政の過失となる。公的支援ではなく、公的責任となるが、本当にそれで良いのかと述べていた。全く同感である。なお、近く、日弁連は提言を発表すると述べていた。期待をしたい。

●ほんの一部しか紹介出来なかったので、発言趣旨を筆者が歪めているかもしれないが、会場の雰囲気を知って頂くために敢えてまとめておいた。
 今回のシンポは、「現場からの提起」ということで、臨場感に満ちた内容であった。第1回としては、参加者も多かったし、「成功」だったと思う。注文は3点である。
 第一は、日弁連の参加があったので、多少は「法律問題」について提起があったが、行政民間化の法的問題について、最高裁の判決批判も含めて、突っ込んだ議論が必要であるという点である。(この辺は、私どもの研究会での議論などにふれて、後日論じたいと思う)

 第二は、上記問題と関わって、政策的提起の練り上げがまだまだ不十分であるとの印象を持ったことである。あまり政策・要求化を急ぐと、アメリカの対日市場開放要求に「利用」される危惧を感じた。日本の業界内での「弱者イジメ」と同時に、日本の建設市場への「開放要求」にどう対応するのかも、併せて議論をする必要がある。これは、ホリエモン事件も同様である。検査強化とか市場の整備など(公正取引委員会の強化など)の要求も、当然ではありつつも、もっと視野を広げた対応を検討する必要がある。

 なにしろ、小泉内閣は対日投資を二倍にするということ(つまり、日本の企業をM&Aで買収してくれ、市場開放をそのためにやりますということを、スローガンとして掲げているのだから)を公約にしているのである。
 財界の代表である日本経団連の御手洗次期会長はキャノンであるが、既に外資が50数%を占める企業である。資本のグローバリズムの中で、日本の大手企業の株主の利益と日本国民の利益が「合致」する必然性のない状態に至っている点に留意しつつ、企業の国民による監視や統制の在り方を考えていかねばならないのが今日の実態である。

 第三は、そもそも今回の「耐震偽装」というのは、「どういう性格」の事件であり、今後の国政への影響として、どういうことが「想定」されるのか、という問題である。ここで頭にあるのは、上記の議論で少し示唆をしたが、単なる「国内」問題なのか、ということである。市場開放や「グローバル・スタンダード」(和製英語)の在り方は、国内レベルの問題ではない。政策的対応もこの点を見逃すと、アメリカのエエ「カモ」になる。特に、これまでの消費者重視などの政策スタンスには疑問が多いので、この点、一言加えておきたい。


●やや「結論」を先回りしすぎたが、ここで、建築確認事務をめぐる諸論点について、整理をしておきたい。

 行政の民間化は、明らかにこれまでの到達点を凌駕し、新しい「領域」に踏み込みつつある。
 最高裁は、東京都の在日外国人の管理職試験受験資格を認めなかったが、その理由として「当然の法理」ということで、「公権力行使」を外国人に認めない判決をだした。この問題自体を論ずることは機会を改めたいが、それでは、建築確認事務を実施する民間企業が外資に買収されたり、外資そのものである場合、確認事務は典型的な「権力行政」であるので、外資に公権力を行使させたことになる。
 オリックスは70%の外資が入った企業(集団)であるが、この代表の宮内氏が「規制改革・民間開放推進会議」の議長に就いている。オリックス生命という保険会社を傘下にもつ企業の代表が、民間医療保険について影響を与えるポジションに居ることは、コンフリクト・オブ・インタレスト(利害抵触)ではないかと医師会から批判を受けていたが、これは一応は「国内」問題である。
 外資による内政への影響行使は単なる利害抵触ではなく、国家の自律に関係する、「内政干渉」ではないのか?もちろん、国際法の内政干渉という概念は国家間の問題であり、現在では「内政」については、「国際法による規律が及んでいないがために国家が自由に処理ができる事項である」と消極的に理解されているようである。従って、「内政干渉」とは勿論比喩的な話しであるが、他国資本の利益を第一義的に考える小泉内閣の政治的スタンスは、批判の対象となるべきであろう。「対米隷従」という言葉すら使用されるようになった今日この頃である。


●さて、次回は③として、アメリカの対日要求問題や、最高裁の判決の問題点などについて整理をして見たい。