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 2006年07月05日(水)

市場化テストの現段階を考える

●市場化テスト問題については、このブログでも何回か取り上げてきた。最初の頃は、規制改革民間開放推進会議の中間報告などの議論をベースに批判的検討を行ったので、原理的な批判(あちらさんの議論も全面展開だった)を中心に、「いかに問題の多いもの」であるかという点が中心になった。

 その後、法案が提出されると、かなり運動の「成果」もあり、一定抑制された内容になってきたので、緻密な批判が重要になった。このブログでは、総務省と内閣府の「対立」問題などにも一定ふれて、小泉内閣の求心力の低下問題と関連して議論を行った。
 関西で行われたシンポジウムでは、総務省の幹部が「無理して市場化テストを行う必要はない」と述べていたほどである。

 結論からいって、現在はこのレベルの話から、国だけではなく、自治体の市場化をさらに進める立場からの「巻き返し」が行われようとしている。竹中総務相の下に設置された「地方分権21世紀ビジョン懇談会」での議論や、経済財政諮問会議における民間議員提出の議案などにその方向がふれられている。

●自治労連のHPを読んでいたら、自治体における市場化テストの問題について法務省交渉を行った経緯が書いてあった。
 概略は以下の通りである。
 
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 自治労連は6・23中央行動にあわせて、市場化テスト法の導入にかかわる関係省庁への要請行動をおこない、市場化テストで検討される戸籍謄抄本の交付にかかわり、法務省に要請しました。

 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律第34条において、特定公共サービスとされた戸籍法にかかわる市区町村の業務について
(1)戸籍届出の受理、戸籍謄抄本の交付に係る市区町村の業務について、この間、法務省は「足立区の提案に対する回答」において「全面的に民間業者に行わせることは不可」としていたが、それを「交付の請求受付及びその引渡し」について「法の特例」という形でなぜ可能にしたのか、その理由と根拠を明らかにすること。
(2)窓口業務にかかわる条文規定(34条)は、業務の範囲を「交付の請求受付及びその引渡し」としており、当然に交付やそれに付随する管理事務は含まれないことを明確にすること。
(3)前項でいう「交付の請求受付及びその引渡し」には、割印や掛紙の処理、認証印の押印を含まないことを明確にすること。
(4)その業務の範囲でも基本的な問題が生じた場合は、その内容を明らかにし、特定公共サービスから除くことも含めて再検討すること。
(5)市区町村が法で定められた業務の範囲を逸脱した不適正な運用をおこなっていることが明らかになった場合は、ただちに是正指導をおこなうこと。

 以上の要請に基づいて、法務省からの回答を受けました。
(1)について
 戸籍謄抄本の交付に関わる事務は、基本的に公務員がおこなうべきと考えている。現在、非常勤職員が実際に事務をおこなっている例があるがあくまで補助的なもので、公務員が責任を持って交付することが前提であり、足立区に回答した立場は変わっていない。その上で、「受付および引渡し」であれば、一定の条件のもと民間でもおこないうるのではないかという判断だ。これは郵政を公社化した際に、郵便物の受付と配達に関わる業務について、一定の設備基準を満たし、守秘義務を徹底した上で可能とした措置と通じるものと考えた。ただし、戸籍ということで、「本人からの請求」しか認めない。その範囲での特例として判断したものだ。
(2)について
 当然そのとおりと考える。交付に付随する審査業務は専門知識を要するものであり、あくまで公務員がおこなうこととしており、民間業者は対象外だ。こうしたことで一方からは批判を受けているが、この姿勢は法務省として堅持したものである。
(3)について
 押印は明確に含まない。割印については交付の手続き上、仕方ない面があり、郵便局の例に準じて民間業者がおこなう。
(4)(5)について
 これも当然のこととして認識しており、しかるべき是正指導を行う。
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 一連の業務の中の受付と引き渡し「だけ」を民間に市場化テストで委託することがどれほどの「効率化」や予算の縮小を生むのか、全く理解の外であるが、ともかく、市場化テストを自治体に「押し込みたい」というのが、政策当局の姿勢だったのだろう。

 そこで、何でこういうややこしい話になるのかというと、市場化テスト法2条の4で「公共サービス」の定義を行っているが、「国の行政機関等の事務又は事業として行われる国民に対するサービスの提供その他の公共の利益の増進に資する業務(行政処分を除く)」と規定されていることが大きい。

 耐震偽装問題にふれたブログで、横浜市にマンションの住民が損害賠償請求を行った(建築業者から横浜市への賠償の付け替え)ことに対し、最高裁の判決を引いておいた。要するに、建築確認事務は自治事務であり、市町村の事務であるから、住民は市町村に対して損害賠償請求を行うことが出来るというものであった。民間に確認事務を「投げて」も、その最終責任は自治体に存在するという判断であった。

●市場化テストにおいて、官民競争あるいは民民競争で、業務を民間が行う場合、結論的にいって結果は「民間委託」と同じである。
 行政の私人化(私人による行政)というのは、建築確認事務もそうであるが、公権力の行使に関わる部分を民間に委任することである。この「委任」をどう見るかというのが、学問レベルの論争でも中心になる。
 仕事・権限が民間に移っている(つまり私人による行政)と見れば、なにか具体の損害を国民に与えた場合、その損害を償うのは民間であるということになる。また、仕事そのものが行政に残っているとすれば、最終責任は行政にあるので、国家損害賠償請求の対象となる。
 最高裁の判断から言うと(横浜の場合、損害賠償請求権は認めたが、実際の損害賠償請求は棄却した)、後者の認識になる。これは、伝統的な考え方であり(我々はむしろ公権力の行政による「独占」を批判してきた)、今日の行政民間化の進展とは明らかに矛盾を持っている。これをどう見るのか、今後の課題の一つであろう。

 今回の市場化テスト絡みで、戸籍謄抄本の交付の一連の流れの中で、公権力の行使(行政処分)に該当するものを「除いて」、市場化テストの対象としたことは、上記の最高裁の判断をベースとしていると見ることが出来る。
 総務省なども、こういった判断に立っており(行政処分や公権力の行使論を「乱発」することはそれ自体問題になるであるが)、三菱総研主催の「自治体チャンネルセミナー」(5月31日)において、市場化テスト推進室の松下和生氏もくどいくらいこの点を強調していた。

●市場化テストの対象は、職安、国年、戸籍の三つであるが(現時点)、この対象を「実施方針」を受けて、逐次拡大していくのが、市場化テスト法の手法である。
 東京の足立区などは、公権力の行使を除いたこと自体に不満を表明していたが(特区などの手法もあるので、市場化テストだけが問題ではないが)、竹中懇談会や経済財政諮問会議の民間議員なども、この方向を指向している。
 「小さく産んで大きく育てる」ということになってしまうのか、つくってみたものの役に立たなかった、となるのか現時点が一つの岐路になるだろう。

 行政民間化も、ポスト小泉内閣の行方とからみ、ある意味で潮目の変化を迎えている。現在の状況では、新自由主義的構造改革がその方向を変えることは想定しずらいが、スピードや世論への対応など、一定の「変化」はあり得るだろう。市場万能論に対する批判もホリエモン事件や村上ファンド問題などを通じて、世論となりつつある。今後は、規制改革・民間開放を主導した宮内オリックス会長などへの追及が重要になるだろう(今度は貴方の番だ!)。
 今後、医療改革などの具体的な影響も出てくるし、構造改革批判が強まる方向も運動によっては可能である。

 公務員の運動は、国も自治体も無展望な定数削減をはじめ、色々な困難に遭遇していることは事実であるが、ここは原則を高く掲げて運動を強めてほしいところである。