2007年01月08日(月)
自治を究める『読書法』(ガバナンス1月号)に寄せて
★新春なので、「軽い」話題を。『ガバナンス1月号』にスキルアップ特集として「自治を究める読書法」が掲載されている。これは「対談」の部分と31人の識者アンケートからなっており、「自治体職員にお薦めの3冊」ということで、31人の識者が、それぞれ3冊づつお薦めの書籍を紹介しているものである。
なお、このお薦めの言葉は印刷物としての『ガバナンス』には掲載されておらず、「ぎょうせい」の「ガバナンス」のHPにのみ掲載されている。
詳細は、これをご覧いただきたい。ここでは31人の「選び方」には論評を加えないが、その内訳は学者が12人、首長が14人(知事が6人、市長が8人という組み合わせ)、ジャーナリスト等が4人、官僚が1人となっている。ただ、学者でも元自治体の首長であるとか、自治体職員、ジャーナリストなどが含まれており、「純粋」な学者は数字ほど多くはない。これは、これらの「業界」が最近では、かなり錯綜して、人的にも交流が激しいことを物語っている。
また、学者も色々な立場の方が含まれているが、政府の審議会や、地方団体関係の研究会、各自治体の政策立案などに関係している方が多い。つまり、自治体に何らかの関係をもって「仕事」をしている人を31人選出していることになる。
★ざっと、こんなことを頭にいれて、それぞれの「3冊」を一瞥して欲しい。これを読みながら、「自分だったら何を紹介するかな~」と考えると結構悩ましい。専門の立場からレベルが高いと思った「学術書」は、自治体の職員への紹介であるから、相応しくないが(しかし、平気で一般の自治体職員にはちょっと読みこなせないだろうと思われる本を紹介している方もいる<笑い)、地方自治とはあまりに範囲が広いので、一般向けとなると焦点が定まらないことになる。
そういうわけで、立場の相違を超えて、それ以上にご推薦の「3冊」が共通していない。逆にいうと、この1年間をリード(推薦はこの1年に限られないが)したような「自治関係」の書物が意外に少なかったということなのかも知れない。
この数年間は「地方分権」とか「三位一体改革」とか、ともかく自治体の性格や運営が大きく変わろうという時代であることは間違いないので、このような内容で「ぴたっと」情勢にフィットした書籍があれば、多くの人が共通して推薦していることだろう。逆説的だが、既に述べたように、共通した認識が形成されていないということが各人の推薦書がかなりバラけていることに示されているのではないだろうか。
★と、我田引水的に、「地方分権論」や「三位一体(痛い)改革」への共通の理解がないという持論に引きつけておいて、全体を眺めてみる。
憲法書はともかくとして、『街道をゆく』(司馬遼太郎)、『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』などは、私も読んではいるが、恐らくこういうものを推薦することを「期待」されていないと判断してパスするだろう。つまり、こういう本をあげている方は、自治というより、もっと広く人間の組織の在り方や運動の教訓を自治体或いは自治は、吸収すべきだというようなメッセージを伝えたかったのであろう。『小説 上杉鷹山』なども、江戸時代の財政再建と「なせばなる、なさねばならぬ何事も、ならぬは人のなさぬなりけり」(このフレーズは子どもの時から、祖母にイヤという程聞かされ、耳にタコなのであるが)というような人生訓と財政運営の極意を時代を超えて考えるというメッセージであろう。と、善解しておく(笑い。
『貞観政要』とか『全訳 為政三部書』などは、私はマトモに読んだこともないので、何で、こういったものがあげられているのか理解もできない(苦笑)。
さて、そうは言っても、推薦された著者のレベルで見ると、一番多いのが松下圭一であることに驚かされる。未だに大きな影響をもっていることだろうか。取り上げられている本は、色々であるが、かつての革新自治体の理論的なリーダーの一人として、大きな役割を果たした松下氏の議論が今日の段階で、なお「新鮮さ」を失っていないのであろうか。それとも、大きな視点で歴史的に今日の自治体の水準、到達点を俯瞰する議論をできる学者が少ないということなのだろうか。
という私も、松下氏の著作については1960年代から始まってかなり読んでいる。大衆社会論やシビルミニマム論などは、ある意味で時代を「先取り」した議論であり、マルクス主義や社会主義の「現状」への理解をベースとしてもっていただけに、今日の議論に示唆を与えるものも少なくない。当時の「マルクス主義」の側からの批判の方が、色がうせ、また事実の前に説得力がないことも、氏の議論の意義を浮き立たせているようにも思う位である。
最近の著作では、1996年の『日本の自治・分権』などを見ると、かつて『シビルミニマム論』において、
「都市が全般的生産様式となった工業社会における社会主義は、『自由の王国』である個人自立の物質的基礎としての『必要の王国』におけるシビルミニマムの確立なくしてありえない。賃金プラス社会保障・社会資本・社会保健の水準上昇なくしては、コンミューン論ないし疎外論も空転するのみである。生産力の増大がもたらす市民的自発性と、科学を前提としたシビルミニマムの保障あるいは基準上昇を追求することによって、はじめて哲学は政策となることを見逃してはならない」というような議論からは、かなり遠ざかっている。時代の変化の反映であろうか。
最近の著作で松下氏が「分権」という用語を、かなり気楽に使用していることも気になっている。上記の『シビルミニマム論』の「直接民主主義の論理と社会分権」の節に見られるように、「分権」という用語を、単に国の官僚支配に対する自治体への「分権」というような平板なものではなく、「社会分権」という概念で民主主義の分節化の文脈で捉えていた。つまり、「国家主権」に対する「社会分権」であり、国家に抵抗するものは、自治体のみではなく、労働運動や市民運動、大学、職業団体なども含めた大衆組織の活性化(直接民主主義)に対応した「社会分権」だったわけである。
★さて、1999年の『自治体は変わるか』は、何人かが推薦書にあげているが、この辺になると、理論と実践を合わせ提起するという松下氏の議論の作法も多少変化をして、かなり「実践的」に今日的な自治体運営についての発言が強まっているように思われる。「都市型社会における成熟改革」が分権改革なのであり、熟柿がおちるように実現するという理解から、国際化における都市間競争まで肯定されているので、かつてのシビルミニマム論とどのように理論的に繋がっているのか、よく理解できない行論になっている。
そこで、『自治体再構築』(2005年)における「シビルミニマム再考」の章を見ると、70年代に提起した頃の議論の状況や今日との時代の差異について述べられていて、それなりに面白いのであるが、「2000年分権改革後の今日も『市民自治』から出発する『自治体基本条例』の策定・実効による官治・集権から自治・分権への転換という発想がなお未熟なため、法学者や自治体職員の発想もいまだに国法基準を絶対とみなし、わずかにこの上乗せ・横出しをはかるという、かつての考え方の水準にとどまりがちとなっています。」と述べられているように、依然として明治の官治・集権からの脱却が中心課題として設定されているようである。マニフェストや政策評価などの一面性の批判などは氏の議論のメリットを示しているように思われるが、ミニマムの指数づくりの具体化に当たって、自治体基本条例→自治体計画という分脈が強調されに留まり、その設定の課題は「人口の限界」「経済の限界」「財源の限界」「政治の限界」「人材の限界」などに拡散され、これらを踏まえた「指数の作成・公開」といった問題として捉えられていくことになる。
ここでは、シビルミニマム論の(むしろ)メリットとして認識されるべき「国への対抗」だけではなく、制度の限界も踏まえつつも、さまざまな社会的分権や参加によって、ナショナルミニマムという国基準を超えたシビルミニマム設定の「現実性」が、かなり後退しているように思われて仕方ないのである。
★これで、今日のグローバリズムに基づく地方分権論や、自治体の「裁量権」、或いは財政危機を踏まえた「政策評価」などへの対抗軸を打ち出して、福祉政策拡充のためのシビルミニマム論のメリットを、現実政治・自治体運営の中に活かすことができるのであろうか。はなはだ疑問である。
ただ、松下氏は色々と微妙なことも言っており、上記は私の「誤解」も含まれている可能性があるので、結論として述べるというより、現時点での「疑問」として提示をしておきたい。
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さて、松下氏への言及が長くなってしまったが、新自由主義的改革を進める自治体の「長」が、神野直彦氏の著作を推薦していたり、土居丈朗氏が何故か本間正明氏の著作を推薦して「いなかった」り(笑い)、よく理解できないことも多いが、ハッキリいって、新自由主義的改革を進めている自治体の長が推薦している「実践的」な改革の書などは、読む必要もないレベルの低いものが多い(失礼)。
それに引き替え、松本克夫氏(日経論説委員)があげている3冊には、正直うなった。日本社会の本質に迫る著として私などもそれなりに「感銘」を受けたものであったからである。自治体改革については、フランスの改革を紹介した書籍の一人勝ちになっているが、これは、恐らく今日の日本の自治体再編の大きな問題の一つが人口1万人未満の自治体をつぶすという政府や財界の「方針」との関係で、コミューンや広域自治体の自由な組み合わせや、集権国家から分権国家への「見事」な変貌としてフランスの改革例が認識されていることにあると思われる。
意外なことにスウェーデンについては、中学校向けの教科書が紹介されていた程度である(だが、この教科書は必読ものだと私も思っている。神野氏の紹介によって、読んだのであるが、「なるほど」とその成熟度に感心をしたものであった)。
★この間の分権改革は様々な立場の人が、様々な思惑で進めてきたが、神野直彦氏の著作も3人程度が推薦している。ちょっと物足りない感じがするが、神野氏の最近のスタンスを見ると、どっちに走っているのか、よく見えない場合が多い。この辺を反映しているのかもしれない(失礼)。
うれしかったのは、潮谷熊本県知事が『住民参加のシステム改革』をあげていることである。これは、私ども研究機構の研究会で出版した論集である。幸い、多くの読者を得て、増刷をするといううれしい「誤算」もあり、市民活動家にそれなりに影響を与えたのではないかと思う。
こういった「本格的」な学術書(読みやすいが)が、自治体の職員にも多く読まれることを願ってやまない。と、落ちがついたところで、筆を擱く(笑い。
追補)木佐茂男氏が推薦している『武富士対山口組』というのは、大変に面白い本である。ご自分の著作をさしおいて、この著を推薦していることに好感をもった。
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