2006年02月15日(水)
「小さな政府」論と公共性を基軸とした行財政の民主的点検活動
●「小さな政府」論と公共性を巡る問題で、『自治と分権』第23号で座談会を行いました。この拙稿は、その際に討論の前段として述べたものに多少手をいれたものです。『自治と分権』誌には掲載されませんので(笑)、このブログに掲載をしておきます。
本当は、「小さな政府」論に関して、OECDの統計を使ったり、金融財政統計を整理したりと、結構、真面目に準備をしたのですが、ここでは、図表が使えないため、かなり議論を省略することになります(ご海容を)。
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●「小さな政府」論との対決が急務
小泉構造改革を推進する上で、「小さな政府」論がイデオロギー的にも構造改革の具体の内容に関しても非常に重要な意味をもってきています。「小さい政府」論と述べたのは、2005年の6月の「骨太の方針2005」の中で、「小さくて効率的な政府のための三つの変革」という提起がされているからです。1999年の経済戦略会議以降、「小さい政府」というスローガンは出ていたわけですが、実際の政治過程では公共事業の拡大があり、「小さな政府」のスローガンは説得力がなくなってしまったわけです。
実際には、経済財政諮問会議がこの時期に設置され、「産業再生」などと共に供給サイドに立った新自由主義的改革への「芽」はあったわけですが、小泉首相はこれを活用して、官邸主導の下で「構造改革」を進めてきました。「骨太の方針」における小さな政府論は、「資金の流れを変える」、「仕事の流れを変える」、「人と組織を変えると」と三つに定式化されています。
そこで、それぞれ簡単に内容を見ると、昨年12月24日の「行政改革の重要方針」では、政策金融や独立行政法人特別会計などが資金の流れを変えるということ、総人件費(削減)改革、つまり国家公務員を5年間で5%、地方公務員を4.6%以上削減することが、仕事の流れを変える「行政民間化」としての社会保険庁の解体、規制改革、政策評価、公益法人改革と結びついて、人と組織を変えるという内容を構成しています。
公務員の給与問題を見ると、総合的に削減策が駆使されており、経済財政諮問会議、総務省、人事院などに研究会等が設置され、財界の提言も色々とでており、これらが有機的に関係しながら議論が進んでいます。「仕事の流れを変える」部分では、市場化テスト、医療制度改革が重要です。
2月1日に規制改革・民間開放推進会議が今後の方針を出していますが、医療、教育、福祉、農業の官製市場の改革を強力に推し進める方向です。医療制度改革ではマクロ経済との整合性の追求が根底にあり、医療費の抑制、混合医療導入から医療保険の解体=民間保険の進出という三段階です。いま、マクロ指標管理に迎合した厚生労働省の医療費抑制策が出ているという段階です。
●三位一体改革からネクストステップへ
それから「三位一体改革」からネクストステップへという段階になっています。今後は、自治体の破綻処理のスキームの確立や交付税改革、地方税の改革と進みますが、「地方の自由度」或いは「自由と責任」というスローガンが猖獗するようになっています。後者は、21世紀ビジョン懇談会で初めて出てきたことばですが、金融相として銀行や中小企業などで経営の悪くない企業まで潰してきた竹中平蔵が、今後は自治体つぶしに乗り出したというわけです。これは大変に重要なステップになると思います。
既に、本間正明氏のペーパーが出ていますが、自治体が破綻したときに住民、職員、首長、議員に損害賠償まで含めた責任を追求するというものまで出されています。ですから、地方交付税改革も相当に酷いものになると予想されます。
これに対抗して地方六団体が神野直彦氏をキャップにして、「新地方分権構想検討会」を立ち上げました。メンバーから見て、無事に提言まで行き着くかどうか心配もあります。6月の骨太の方針までに21世紀ビジョンに対抗して提案を出すことになっています。
さて、今日的に「小さな政府」を検討する際に「歳出歳入一体」の改革がどうなるか見ておく必要があります。政府の財政中期見通しによれば、現状維持のままですと、2015年に利払い費を除いて24兆9000億円の赤字になります。そこで、この24兆9000億の赤字を解消することが、プライマリーバランスの黒字化の前提になります。そこで、歳出の削減を考えると、2005年度一般会計では公共事業は7.5兆、特別会計までいれた人件費が5.4兆なので、仮にこれを全部削減しても到底24.9兆円にはならない。そこで出てくる歳出削減の「本命」が、地方交付税と社会保障費になるわけです。ここをバッサリと削らない限りプライマリーバランスが黒字にならないと言って、この「土俵」に自治体や国民を追い込むのがプライマリーバランス論の狙いです。勿論、これはイデオロギー攻撃なのであって、こんなことをやって日本がよくなるわけはありません。
●歳出削減は地方交付税と社会保障費がターゲット
地方交付税について、交付税総額と法定率分の比較を見ると、2001年から2006年までに相当に両者の差が減ってきています。実際には臨時財政政策債があるので、地方交付税等の総額はもっと大きくなりますが、これを無視すると、法定率分と交付税の差額が2兆円まで狭まっています。今後の改革として、この2兆円が法定率分のオーバーとしてあるので、これを削減する方向になると思われます。
経済同友会の提言では、地方公務員の三割を削減して、8兆円人件費を浮かすと言っています。これをやると、地方財政計画の縮小を通じて、地方交付税が4兆円くらい浮いてきます。ですから、公務員給与の削減について地方まで入れて推進すると、地方交付税を6兆円程度削減することが可能だという話しになります。
次に、国と地方の「社会保障費」が現在は40兆円以上ありますが、ここには人件費が相当程度含まれますから、これをリストラしたり(社会保障関係の労働者の給与抑制)、公的支出を民間に振り換え、国民負担を拡大していくことで社会保障費を大幅に削減する方向がめざされることになります。ですから、このプライマリーバランス論というのは、竹中氏がお得意の典型的なデフレ政策であると言えます。こんなことを本気でやれば、折角景気循環の拡大局面になっていても、腰折れになるおそれが十分にあります。
これが「小さな政府」論の財政面から見た帰結になります。ここを突破しないと、これまでダイエーをつぶし、りそな銀行をつぶし、UFJ銀行を東京三菱との合併に追い込んみ、多くの中小企業を潰した竹中流の恐怖のデフレ政策が、自治体や社会保障を潰しにくるわけです。提案型の運動でこの路線をとどう対決していくのか、重要な局面になります。とりあえず、「経済財政諮問会議をぶっつぶす」勢いが必要でしょう。
●市場化・民間化は「小さな政府」につながらない
次に、市場原理と公共性原理の関係についてです。
市場原理への転換は、事前規制から事後規制への転換を意味します。「官から民へ」と言って民間化していくと、事後規制が必要になります。だから、市場の活用というのは、必ずしも小さい政府になりません。ライブドア問題で、市場へ監視が議論されていますが、、金融庁から証券取引委員会を独立させ強化するなどがありますが、政府の職員を一方的に減らしていく中で、こういった規制を強めるのは原理的に無理があります。BSE問題や建築確認事務もしかりです。行政の市場化・民間化は市場や民間活動の事後規制・事後監査の強化を求めます。ですから、「行政民間化」は単純に、「小さな政府」に帰結するわけではないわけです。これは重要な問題です。
少し数字で見ますが、一般政府の収支尻では経常収支は97-98年に黒字から赤字に転落していますが、今でもそれほど大きな赤字ではありません。しかし、政府が減らそうとしているのはこちらです。投資的経費の収支尻はかなり前から大幅な赤字になっており日本政府の赤字は公共投資から生まれているわけです。
●日本の粗債務(累積債務)オンリーの認識の一面性
OECDのHPから取った資料がありますが、各国のGDPに対する一般政府支出の比率一覧表がありますが、日本を見ると2000年位がピークでその後横ばいになっていますが、40%に満たないわけです日本とアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどが最低のグループになります。つまり現状は、国際的に見て「小さな政府」以外の何者でもないわけです。一番大きな政府はスウェーデンやフランスで60%近いわけですが、これでもかなり「小さく」なっており、スウェーデンなどは最高時は70%を超えていました。こういう所が「小さな政府」をめざすというのならまだしも分からないこともないでしょうが、日本は一貫して小さな政府で現在も横ばいです。
次に財政収支の赤字がどうなっているか。日本は2007年でマイナス5%ですが、0%以上の黒字の国はほとんどなく、単年度の赤字を気にすること程のものではありません。しかも日本の赤字は公共事業による赤字ですから、経済動向を見ながら削減すれば良いレベルです。むしろ、あまり公共事業を削減すれば、民間の経済活動に悪影響すら与え、税収を低下させる恐れもあるわけで、この辺のバランスは微妙です。
次にプライマリーバランスです。日本は最下位ですが、2000年のGDPと2005年のGDPが同じ程度という低成長あるいはマイナス成長によって税収が減少してきたことが大きな影響を持っています。プライマリーバランス論には色々な問題がありますが、ここでは省略します。10%以上の黒字のノルウェーというのもありますが、ほとんどがマイナス2-3%からプラス2-3%に収斂しており、これを財政パフォーマンスの指標にすること自体に問題があると指摘しておきます。
次に累積債務です。日本は相当悪いといえます。対GDP比で160%ですから。しかし、一般政府の純負債を見る必要があります。日本は借金も多いですが金融資産等も多く、これを差し引いた純債務という指標でみると、橋本6大改革くらいまでは対GDP比で20%程度でした。ですからこれは、構造改革によって悪化に一途を辿ってきたとも言えます。ですから日本の財政状況は、意図的な政策によるものであり、自然発生的な「危機状態」とは言えません。
しかし、現在の「財政危機」(純債務で見ても、近年大幅な悪化をみています)を軽視することも根本的な間違いです。また、民間の投資であるとか、投資を活性化させる政府の財政支出もそれなりに必要ですが、最も重要なことは、家計を豊にするような諸条件を整え、内需を拡大することでしょう。同時に、日本経済を支えている中小企業の活性化をめざすことなどが総合的に推進させる中で財政状況の好転ももたらされるという認識が重要になると思われます。
●国民の生活を豊かにして「大きな政府」(福祉国家)の形成が必要
行政の市場化を民間活力の決め手にするというのは、本末転倒で、むしろデフレ圧力を強めることになります。そこで、行政の民間化に伴う公共性の問題を検討する必要がでてきます。
行政を民間に移した場合、事前規制から事後規制に変わっていくなかで何が問題なのか。市場による受給調整は有効需要と供給によります。介護保険をみればわかるように、介護保険を活用して、金を出して買いたいという人が介護の有効需要になります。しかし、一部負担金が払えない人は、本当のところサービスは必要だとしても、金で買えないわけで、これは市場では需要とみなされないわけです。つまり、ニーズ=要求はあるがデマンド=需要はないということになります。
ですから自治体や行政から見ると見える住民のニーズは、市場中心の民間の立場から見ると見えない状態になります。生活している人たちの実態が分かればニーズがあることが分かるわけです。ここを行政が放棄すれば、民間と同じように住民のニーズは見えなくなるわけです。介護保険の中で、自治体が老人特養ホームの待機者がどれくらいいるかつかんでいなければ、民間に任せっぱなしにあり、問題は把握できない状態になります。これは明らかに行政の公共性の放棄となります。医療がこうなれば、貧富の差が生命の維持に直接的に影響を及ぼすことになります。こういうモラルハザードを起こさないようにどうするかが、市場を活用する場合の最大のポイントでしょう。
これを住民の権利という面から捉え直せば、公共性とは憲法価値の実現ということなるわけで、平和的生存権を地域から保障する地方自治の役割もここに見いだすことができます。
●行財政の民主的点検活動の今日的意義
さて、今日議論をお願いするのは、行財政の民主的点検活動の今日的意義ですが、1970年代において、深刻な地方財政危機の下で、革新自治体はその先駆的な施策をカットしなければ財政的に破綻するという事態がありました。「人件費攻撃」も今日と比較可能なほど激しいものがありました。こういう中で、労働組合や自治体当局が行財政の民主的点検活動に活路を見いだすという方向が志向されたわけです。色々な取組があり、教訓もたくさんあるのですが、結果的には臨調行革のなかで革新自治体がつぶれ、行政の民主的点検活動も尻すぼみになりました。
これに対して、今日の財政危機は、政府のデフレ政策や減税によってもたらされている側面が強く、経済の成長をある程度担保する政策や、取れるところから取れば財政危機という事態は発生していないと言ってもよい位です。その証拠に財政緊縮政策を強化している小泉内閣の下で、財政の赤字や累積債務の悪化が一層激しくなっています。そういう意味で、現在の財政危機は、むしろ「つくられた」政治危機=デフレ政策、競争力増強政策の「つけ」という側面が大きいと思われます。
ですから、行財政の民主的点検活動は、「けちけち運動」や、「内向きの議論」では駄目なのですが、津南町のように、「市町村合併」に与しない自治体を中心にして、国の攻撃の中でも財政の展望を確立して、住民生活を守る、地域を守るという方向が出されています。
三位一体改革で自治体財政が悪くなるという面だけを見ると、これを「解決」するために、民間のコンサルタント会社に財政分析を依頼して、住民生活を犠牲にするとか、構想日本の業務仕分けや業務棚卸しのように、行政の民間化や廃止を強引に進めるというような事態が発生します。
これに対し、職員参加、住民参加、当局の説明責任を果たさせる点検活動が非常に重要になっています。これと一体となって、全国的な自治体再編に与しない運動や地方交付税を制度として維持する全国的運動をひとつの流れにすれば、行政の市場化・民間化という攻撃をはねのけることは不可能ではありません。津南町の実践で優れているのは、予算・財政の問題とかみ合わせて仕事の見直しをしているため、財政的効果や相手の攻撃の狙いが見直しの中で解明できる点です。
どの自治体でも、それぞれの力量や具体的状況に見合った運動、あるいは政策をつくりあげて行くことはできると思います。「小さな政府」の狙いや矛盾を見据えて、全国的運動と地域や自治体からの運動を結合して発展させる方向を、全国の実践を踏まえて、ご議論を頂きたいと思います。

