2006年10月15日(日)
『自治と分権』第25号余話ー渡辺インタビューについて
●『自治と分権』第25号が発売されました。今回は、「ポスト小泉=安倍新政権とこの国のゆくえ」という特集で、メインは渡辺治(一橋大)教授への「一問一答=安倍新政権の誕生と改憲・構造改革の新段階」と「対談:渡辺治×田中章史(自治労連副委員長)」の「憲法擁護の運動をめぐる基本方向」です。これに、小沢隆一「財界の憲法『改正』論」、渡名喜庸安「道州制の現段階と問題点」、清水修二「地方広域合併都市の財政課題=一関市」、高橋典成「沢内村と湯田町の合併と医療・福祉行政」といったラインアップです。
今回の論文を全体としてお読み頂くと、今日の憲法、自治体をめるぐ状況「いま、自治体はどうなっているのか」について、全体像がよく分かるのではにないかと「自負」しています。
●とはいうものの、なんといっても渡辺教授のインタビュー+対談は、全部で56ページに及ぶボリュームなので、一気に読むのはなかなか大変です。時間を計って読んでみたところ、やはり2時間近くを要しました。最初のテープ起こしの原稿を編集し、ゲラ段階の修正などを含め、印刷物になるまでに3回は読んでいるのですが、今回は特に力を入れて入念に手を入れて頂いたこともあり、かなり「読みやすく」なっています。
率直にいって、いま、この日本が「どういう方向に進むのか」「どういう方向に進めるべきか」について真剣に考える人間にとっては、「必読」文献であると思います。「長い」という読者からのご批判がでることを「予想」して、「編集後記」に「長い、難しい」という「批判はやめてくれ」という文章を書いて、印刷に回したところ、編集委員会のメンバーからクレームがでました。「好きに直してくれ」と放置プレイにしておいたところ、ほぼ、私の文章がそのまま印刷されておりました(汗)。
●一問一答では、安倍首相の基本的スタンスについて「ナショナリズム+新保守主義」という規定が行われ、「戦後はじめてのタイプ」であることが述べられました。同時に、安倍氏の新保守主義は、小泉構造改革=新自由主義と親和的な部分が多く、この矛盾はかなり深刻な弱点になると指摘されました。
つまり、安倍内閣は様々な矛盾を持った内閣であり、「強い内閣」と言うことはできない。来年の地方選挙や参院選挙に当たって、小泉によって自民党から放逐された新保守主義の国民新党や新党日本のメンバーへの「秋波」、民主党との「誘致合戦」などについても、その弱点との関係でみる必要があるということです。
今回のインタビューは読みやすいものの、内容はかなり「本邦初演」のものがあり、ナショナリズムの分析などは、渡辺氏の『日本の大国化とネオ・ナショナリズムの形成』(櫻井書店)の議論を敷衍したものです。「現代ナショナリズムの過渡的相貌」とい(55頁)では、安部晋三を含めた日本のナショナリズムが「北朝鮮に攻められるとか、中国にバカにされるという、防衛主義・小国主義的ナショナリズムと、反アジア的ナショナリズム」であることがのべられ、これに依拠しながら、アメリカと一体的な軍事的な姿勢を正当化するのは、非常に無理があると指摘されています。
また、ナショナリズム台頭の要因の分析も、渡辺氏のこれまでの議論の敷衍ではあるものの、新しい視点が展開されています。それは、日本の経済界(経団連など)が、東アジア自由経済圏構想という「リージョナル」な視点をもった、「経済圏」の構想を打ち出していることと、従前のアメリカの世界戦略に依存しただけの「その覇権」の下での、日本の経済発展という考え方の「相克」を指摘していることでしょう。
私も、大分まえに、経団連の「活力と魅力ある日本へ」(2003年)には、アメリカという文字が出てこないという指摘をして、「従前であるなら、日本の帝国主義的『自立』への欲求か」というような議論になる視点が出ていることをのべたことがあります。
もちろん、こういう単純な軍国主義=帝国主義自立論などではなく、現代の帝国主義が、アメリカを先頭とした階層的・重層的な帝国主義であるとみれば、多かれ少なかれ、アメリカの覇権を前提とした帝国主義同盟(日本の場合は、従属的帝国主義となるが)が問題になるわけです。しかし、アメリカにしてもEUにしても、地域経済圏を確立しつつあり、日本の支配層の中から、日本も東アジアという「地域」をベースにした経済圏=共同体が必要であるという認識が出てきていることは、今日のグローバリズムとの関係で、非常に新鮮な指摘であり、渡辺氏の現代帝国主義論の彫琢ぶりを示す議論であろうと思います。
●こういった中で、今日の北朝鮮のミサイル実験や核実験の問題、国連安保理事会の非難決議問題における、アメリカや中国(+ロシア)などの動きを見ると、東アジアにおける日本と中国、アメリカ(+ロシア)の相互の関係、思惑などが見えてきます。
中国が北朝鮮への強い非難決議に基本的に賛成したのは、核拡散に反対するという6者協議の議論に反するという「形式論」だけではなく、日本では言い古されたことばでありますが「北の脅威」という視点が色濃く出ているように思います。
日本の政権が、必要以上に北の脅威を強調しつつ、実際には、アメリカの先制攻撃とこれをサポートする周辺事態や武力攻撃事態などの「動員」を行おうとしていることは、極めて不当なことで、詐欺的な宣伝でもありますが、やはり「核実験」(成功したかどうかは別にして、また、ミサイルに搭載する技術が未確立だとしても)、を行ったとなれば、これはやはり、現在の国際政治にとって極めて憂慮すべき深刻な事態であることは自明だということです。
そういう意味で、中国がアメリカに妥協したとかいうレベルの話しではなく、東アジアの平和にとって、何としても、避けなければならない事態だという常識的な認識から来るものであると言えるでしょう。
●こういった認識をベースにして、私はこれまでに北朝鮮が「どのようにして、追い込まれてきた」か、また、アメリカの身勝手や非対称の戦争と、核保有の関係などについて、述べてきたわけです。
渡辺さんのインタビューは、事前の相談で、「小泉の靖国参拝を見極めてから行おう」ということにしておりましたが、渡辺さんの体調などから、何回か延期し、安倍新政権が確実になってから行うという日程になりました。
それから、どうしても述べておく必要があるのは、憲法改正との関係で「地方に構造改革の先兵」の役割を与えるという意味で、今日の「地方分権」というキーワードが極めて危険なものであることが指摘されていることです。これは、研究機構のインフォメーション・サービスでも進藤論文が指摘している点に繋がります。また、晴山論文も「地方分権」のそもそも論から批判をしています。
このような危うい立場と同時に、地方からの様々な運動が発展し、9条の会などの運動と相まって、地方が「一番元気」と指摘されていますが、地方が「構造改革攻撃の焦点である」と述べられています。
この辺の議論は、自治体労働運動の「活動家」にとって、必読のモノでしょう。
10月21日の自治研集会の渡辺さんの講演では、この辺はかなり力が入るものと予想されます。また、日本の民主的活動家と言われている人たちの弱点となっている「北朝鮮問題」などにも、言及があるのではないか、と密かに期待をしている次第です。
●『自治と分権』の宣伝にかこつけて、結局、持論を展開しただけのようなブログになってしまいましたが、頁数が多いことは、内容が充実していることと同義であると思って、是非とも、今号を最初から最後までお読み頂きたいと思う次第です。
最後に付け加えておくと、今回の渡辺インタビューでは、国民投票法や共謀罪問題、教育基本法改正の「本質」についても、かなり突っ込んだ議論があります。また、9条の会の運動と労働運動・市民運動との関係なども新しい「提起」が行われています。
と、いうわけで、最初の「首長インタビュー:陸前高田市長の中里長門さん」のお話を紹介している時間がなくなりましたが、来年2月が選挙であり、現在の日本が「どういう状態」に置かれているか、その中で「共産党員市長」が保守にも支持されて、地域から第1次産業中心のまちづくりを進めるという、以前では考えられないような状況が「手に取るように」わかります。最後に、このことを強調し、今回の「余話」としておきます。よろしく。

