2005年10月26日(水)
小泉首相「解散決意は1年前」?
●郵政民営化法案が参院で否決されたことに「逆ギレ」した小泉首相が「無謀」にも衆院解散を行い、郵政民営化「反対」者に「刺客」まで送って総選挙に臨んだ結果、予想に反し(または、「予想以上」の)「大勝利」を得た。一体どういう経過で、小泉首相が「解散」を考えるようになったのか、マスコミでも様々な憶測が飛んでいる。また、「自民党をぶっ壊した」手法の鮮やかさから、その執念と仕手戦並の「民間的」手法への興味も拡大しているようである。
今回は、「科学的考察」とはほど遠いが(「科学の目」ではなく、「魚の目」である)、読み物風にマスコミ等の論調をサーベイして見たい(というか、あくまで「読み物」として理解して欲しい<笑)。
●神奈川新聞の9月13日付けに、次のような記事が掲載されていた。
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☆小泉が与党の了承なしに郵政民営化基本方針を閣議決定し、直後の内閣改造もその方針を踏み絵とするなど「郵政シフト」を強いた昨年9月。国対委員長中川秀直は、対応を協議していた小泉から打ち明けられた。
「法案が否決されたら解散する。誰にも言うなよ」
☆解散への構えも事前に整えていた。まだ法案が衆院特別委員会で審議されていた6月から7月にかけ、小泉は周辺に「法案が成立するケースの対応は一切考えなくていい」と言い放った。微妙な言い回しだが、「否決―解散」に備えよとの指示だった。
☆一方、七月五日の衆院本会議での予想以上の反対票続出を経て、小泉サイドは選挙に向けて準備に入っていた。同月末には側近の首相秘書官飯島勲が、環境相小池百合子や上智大教授猪口邦子ら数十人に上るリストを手に、亀井ら反対派の選挙区に擁立する対抗馬の選定作業に着手した。
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この記事を根拠にして(多分)、「首相が一年も前から、郵政民営化法案が否決された場合の解散を決意していたこと、それをごく一部の側近以外にはだれにも伝えず、解散・総選挙にむけた計画を周到に練り上げていた」(共産党4中総)との評価もあるようであるが、この問題を少し考えておきたい。
●小泉首相が、郵政民営化(20年来、バカの一つ覚えのように主張してきたことはよく知られている)法案が否決された場合の「解散」を考えたことは、恐らく事実であろう。小泉首相周辺の事情に詳しい「地元」新聞の記事であることも、「信頼性」を増しているように思う。
ただ、この小泉首相の「執念」が1年間持続し、今回の解散総選挙が「周到」に練り上げられたものであるかは、別途検討を要する。
第一に、小泉首相が決意したのは、昨年9月の段階で「郵政民営化基本方針」が閣議決定された前後である。この場合の「解散」とは、当然のことであるが、衆院で否決された場合のことである。当然、否決されるためには、自民党内の「郵政民営化反対の抵抗勢力」が念頭にある。
第二に、上記のように自民党内の「反対」によって否決される事態を想定すれば、その際の「解散」総選挙は、自民党の分裂選挙になり、民主党の出方によっては、「政界再編」になり、自民党が政権を失うという「シナリオ」も当然に頭になければならない。つまり、もし、小泉首相が昨年の段階で「総選挙」を決意していたのであれば、自民党が政権政党から「転落」する事態の中で、自分の「位置」をどうするのかが考慮されたハズである。
第三に、その際、「自民党をぶっ壊す」だけで、良かったのかという問題が生ずる。一部のマスコミでは、民主党と組んで自民党を野党に追いやるという構図が指摘されていた。しかし、その場合、自民党郵政民営化派+民主党と自民党抵抗勢力という構図になり、今回のように亀井氏や綿貫氏などを「除名」という形で完膚無きまでに「打倒」できたかは疑わしい。
第四に、話しは戻るが、少なくとも小泉首相が「解散」を「自己目的化」して突っ走って来たとは思えない。衆院では、民営化法案に関して、いくつか重要な「修正」が加えられた事実がそれを証明すると思う。一つは、窓口ネットワークの維持に関して、基金1兆円という当初からの妥協案を更に積みまして2兆円にまでしたこと、二つ目は、当初の郵貯・簡保会社については、完全民営化だったものを持株会社の30%の株式所有を認めたことなどである。
「自民党をぶっ壊す」ための「解散」を第一義的に追求する場合、こういった「妥協」は無用のことであり、ここで衆院を解散すべきであったろうし、これが「スジ」だった。
衆院段階で「修正」をしておいて、参院では一切の修正を認めず、しかも、参院で否決されたことをもって、衆院解散とは、常識的にいって世論の賛同を得られるものと想定はできなかったであろう。事実、マスコミも郵政民営化自体については、促進キャンペーンを張りながら、参院否決・総選挙という手法には、批判的であった。
5票差で衆院で可決された時の「うれしそう」な小泉首相の表情からは、郵政民営化法案自体の「成立」を「心から喜んでいる」風情が察せられた。
●以上の「魚の目」の考察から、小泉首相が念頭においていた「解散」とは、衆院での否決に対応する「行動」であったと思われる。マスコミがもっと精力を傾注して取材すべきは、むしろ、衆院で可決→参院で修正を行わない→参院否決→総選挙という行動への「転換」のモメントであろう。
衆院で困難な状況に陥ったのは、小泉首相の「木で鼻を括ったような」硬直的な答弁であったという指摘は、一つの「つぼ」だったと思う。つまり、小泉首相は、当初は衆院で否決されても良いと思っていたのではないか。その準備もあった(これが1年前の決意だったハズ)。ところが、衆院では妥協した。
注】この「妥協」を本質的なものと見るか、些末なものと見るかは、意見が割れるだろうが、筆者はあまり本質的なものとは思っていない。郵政民営化は資金の流れを変えるものであり、その意味では、経営形態とは一線を画すものである。確かに、持株会社が郵貯、簡保の株を持ち続けることは、政府の関与を維持する危険があり、資金の流れそのものを「制約」する恐れはあるが、この点も、今回の民営化方針「全体」の妥協部分と比して、特別重大とする根拠は乏しい。むしろ、民営化を決定した後の「見直し」に期待するのが、政治感覚としては、正常なのではないか。
●それが、参院では一転して、妥協を拒否したのである。この「間」の小泉首相の「胸の内の変化」こそ、解明すべき最大のポイントだろう。
恐らく、財界からの全面的支援の見通しが立ったからではないか。今回の総選挙の最大の特徴は、財界が一丸となって小泉自民党(つまり守旧派・抵抗勢力狩り)支援を行ったことであろう。民主党の「思惑」ははずれたのであった(残念~!)。小泉首相が、総選挙後、抵抗勢力(それに民主党も)が郵政が「政局」であることを理解しなかったのが最大の「失敗」だっただろうと述べているのは、まさにこのことであろう。
民間の企業は、これまでの選挙と同じように、自民党から抜けた「無所属」候補者の選対にも「対応」したところが当初多かったようである。あまり、選挙への特別の関心もなく、「マンネリ」選挙との印象を持った向きもあるようだ。しかし、トヨタに代表されるビッグビジネスの支援は「本物」であった。系列企業の社員には、この辺はよく分かっているハズでる。万博を「成功」させた(散々、政府や自治体の予算支出を得て、獲得された60億の利益の処理はどうなるのだろうか?)迫力で選挙運動を行ったわけである。
●(余談)小泉首相のアジテーターとしての資質だけは本物である。
かれが首相官邸で行った演説は、国民投票を訴え(このフレーズはしびれた)、「もう一回国民に聞いてみる」と述べ、参院否決での衆院選挙という憲政史上初めての「無謀」な汚点を覆い隠した。
その演説の中でふれられている最大の問題は、官僚打倒と公務員の削減である。儲かっているからこそ、公務員を削減すると。これが、総選挙後の「公務員給与削減、定員削減」の国・地方を跨いだ「全国合唱」につながっているわけである。さて、潮目の変化が現れているかどうか。
時代の流れに注目をしたい。

