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 2006年05月10日(水)

経済同友会「今後の日中関係への提言」を読む

●経済同友会が「今後の日中関係への提言―日中両国政府へのメッセージ」という政治的な提言を発表した。読売新聞は、この提言について次のような記事を配信した。

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 「経済同友会は9日、首相の靖国神社参拝取りやめと、戦争犠牲者を慰霊する国立追悼碑の建設を求める『今後の日中関係への提言』を発表した。
 主要経済団体が首相に靖国神社参拝の中止を求める提言を行うのは初めて。
 北城恪太郎代表幹事は記者会見で「日本の実情や参拝の理由への十分な理解を得ていない段階で、参拝をするのは好ましくない。国民感情が対立する中で、安定的な発展はない」と強調した。
 提言は、首相の靖国参拝が日中首脳の交流の障害になっていると指摘、小泉首相が「不戦の誓い」を参拝の目的としていることについて、靖国神社がその場として適切かどうか、国民の合意が得られていないとし、「靖国参拝の再考が求められる」とした。また、「不戦の誓い」を行う場として、国が宗教性を排除した追悼碑を建立するよう要請した。
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 このブログでも1月17日に「『論座』(朝日新聞)の対談で、渡辺恒雄氏が靖国批判 」という一文を書き、この対談の中で、首相の靖国参拝問題は日本の侵略戦争への反省にたって中止されるべきであり、また、次期自民党総裁選挙の「争点になるべきである」と発言していることを紹介した。

 経済団体が首相の靖国参拝の中止を求める提言を行ったのは「はじめて」だそうだが、これまでも、首相の靖国参拝時に「いい加減にしてくれ」といった議論はかなりあった。また、奥田経団連会長などが、中国訪問でこの問題を話し合ったという憶測報道もあった。 

 経済界の立場からみると、日中貿易は日米貿易を凌駕し、中国のアジアをはじめグローバルなレベルでの「存在感」もかなり大きくなってきた。外貨準備も日本を抜いて世界一となり、アメリカとの(良かれ悪しかれ)「相互依存」も抜き差しならない状況になってきている。
 「元」の存在感も増しているが、外貨準備が拡大すると、国内で「元」が(中国銀行が外貨を元で買うので)拡大し、ハイパーインフレの恐れも強まるなどし、いよいよ、中国の資本の海外投資が容認される段階にまで、資本の自由化が進んで来ている(つい、最近の報道である)。

 このようなトレンドをみてくると、経団連が2003年に発表した「魅力と活力ある日本をめざして」という戦略的文書に「東アジア共同体」の確立が出ていることが想起される。
 実は、この文書で私が「あれ」と思ったのは、中国や韓国などをパートナーとした共同体という方向は、勿論、ECやNAFTAなどの自由貿易圏を意識しているわけであるが、この文書には「アメリカ」が全くといってよいほど出てこないのである。

 一昔前であれば「すわ、帝国主義自立か」といった議論になるような体のものであったが、中国市場との密接な関係の確立と拡大以外に、当面する日本の将来像は書けないという「事実」の重みが確認される必要があろう。この重みが、日米関係に矛盾を来すといった方向は、まだ見えないし、対米従属はそう簡単なものでないことは、この間の在日米軍の再編に関する「合意」の内容を見ても明白ではある。
 しかし、中国の存在はアメリカにとっても、潜在的脅威であると位置づけられている。これは軍事的なプレゼンスということだけではなく(軍事的には、中国の軍事予算は公表されている数字よりかなり大きいと言われている)、エネルギー戦略なども、アメリカに対抗して、ロシアと共同戦線をはり、イランへのアメリカの圧力強化にも反対をしているわけである。

●上海の日本料理屋が、中国のデモ隊に襲われ破壊されたことは記憶に新しいが(実はその数日前に、私の二男がその店で食事をしていたのだが)、これは、日本政府の歴史観、靖国参拝問題などと「絡んで」いることは明確なのであるが、これまで述べきたような「中国の大国化」とそれに伴うイデオロギー状態の変化という要素も無視することはできないように思う。苛立ちと自信の増大とがない交ぜになった雰囲気である。

 中国では、青少年の教育の過程に「日本の中国侵略」「中国共産党の抗日戦争の勝利」(どうも、日本はアメリカに負けたのであって、中国に負けたのではないという認識がかなり広く漠然と存在しているが)に関する様々な授業や取組がビルトインされている。
 蘆溝橋にある抗日戦争記念館も、最近改築をされ、毎日のように遠足というか、課外授業の形態で小中学生(中国では、小学校、中高は一貫)が集団で訪問をしている。
 革命博物館を見学した際は、中国共産党と日本共産党の日本の軍事侵略に対する「共同声明」などが展示されており、重苦しい雰囲気の中にも、「ホッ」とするような歴史事実も示されていた。抗日戦争記念館は、そうは行かない。その都度、アップツーデートな話題に関する展示などもあるが、細菌戦争や「まるた」を実験台にした生体解剖のぞっとするような模型の展示があったりした。

 最近では、サムスンの中国進出やヒュンダイ自動車の進出なども盛んであり、韓国にとっても、かなり前から日本より中国との方が輸出入とも拡大をしている。反共的な「韓国」というイメージは、今では若い人には全く無縁であろう。音楽や芸能というラインでも日中、日韓よりも中韓の方が「はるか」に太い関係になっている。

●中国人の国際感覚は、そうはいってもまだまだ、日本よりかなり遅れている。おかしな言い方であるが、白人へのコンプレックスや黒人に対する「偏見」の「目」は、日本人から見ても、かなり見苦しい。日本人に対する「対抗心」は、これはかなりのものであると思う。地方によって異なるが、旧「満州」に当たる東北部では、かなりの抵抗感のようなものを感じることが多い。

 さて、話を小泉首相の靖国参拝問題に戻そう。要するに、こういった時期、雰囲気の時代に、A級戦犯を合祀した靖国神社を参拝(小泉首相は裁判では、私的な参拝と言っているが、都合よく使いわけをしており、姑息である)することがどういう意味を持つ(日中間で)かは、明白であろう。百害あって一利なしである。

 小泉首相は、経済同友会の提言に対し、「商売と政治は別だ」と述べたと報道されているが、どうもこの人には「つける薬がない」らしい。商売以下の政治しか行っていないことへの「反省」はなく、商売を政治に持ち込んでいる「宮内義彦」オリックス会長などを、色々な審議会や政府機関に引き込んでいる「責任」はどうなるだろうか。

 良かれ悪しかれ、商売は政治を変える圧力となってきた歴史を持っている。中央集権的君主国家と対外商業こそが「国民経済」と市場を形成する最大の原動力であった。
 
●経済同友会の提言が「商売」であることは事実であるが、商売よりも先に政治こそが、対中国関係を改善するように努力するのが本来であろうし、小泉ごときノー天気に「商売がなにか政治にも劣る行為」であるかに言われることも、極めて噴飯ものである。

 さて、同友会の提言の内容を何も紹介をしなかったが、色々と資料もついているので、勉強のために、各自で当たって欲しい。
 これを取りまとめた「中国委員会」の代表が「丸紅」さんというのも、なにか出来過ぎた話しではあるが、よく中国の実体をご存じなのだろう。

●さて、最後に、今回の提言の政治的「波及」について考えておこう。
これは、「間違いなく」今後の日本の政治に小さくない影響を与えると思う。
 まず、自民党総裁選挙である。阿倍晋三氏が一番手らしいが、どうもこの人の単細胞ー北朝鮮敵視オンリーの話しをきいていると、本当に国民に人気があるのだろうかと疑ってしまう。
 それから、現在、国会に上程されている国民投票法案や教育基準法「改正」などの動向にも大きな影響を与えるだろう。
 恐らく、小泉はこの8月に靖国を参拝するだろう。15日に「堂々」と羽織・袴で。この前のように、ポケットから小銭を出して「ちゃりん」と賽銭箱に投げ入れるようなことはしないだろう。

 しかし、驚くべきことは、この小泉という男は、首相になるマデは靖国参拝をしたことはないのである。『面倒くさい』といって行かなかったし、参拝する意味もなかったのだろう。
 だから、小泉の参拝は徹底して「政治的」なものなのである。一つは、総裁選に勝利するための「遺族会」との「公約」=8月15日公式参拝というものであり、二つは、自衛隊の海外での「戦死」への追悼「対応」であろう。
 この辺の議論は難しいので、当面、渡辺治氏の『日本の大国化とネオ・ナショナリズムの形成―天皇制ナショナリズムの模索と隘路 』を読んで欲しい。

●もっとも、私の考えは、靖国を戦死者の公式な追悼所とすることは、難しいというものであり、多分、無理であろう。靖国神社は、特異な戦争観を保てたのも、一宗教組織として戦後再編されたからであり、公的な追悼組織に再編することも可能な時期があったが、結局、この道を取らなかった。
 靖国を除いて、公的な追悼組織を設立する方向は、かなり各方面から出ているが、これも実際には結構難しい。
 要するに、侵略戦争への「反省」と、これを国民全体の意識や歴史に「定着」させることが大前提であり、こういったことと慰霊を両立させる形式以外には、展望がないであろう。
 日本の天皇も、A級戦犯合祀の後は、靖国に行っていない。小泉が靖国参拝をしているとき、実は万博の中国館を訪問しているのである。
 こういったねじれた政治の結末は、国民の世論と運動で打開する以外ないだろう。
 今回の経済同友会の提言には、賛成できない部分も含まれているが、大半は極めて常識的な日本の「商売人」の発想であろう。
 恥ずべきは首相である。最後に強調しておきたい。