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 2006年07月20日(木)

日経スクープ「A級戦犯靖国合祀ー昭和天皇が不快感」!

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●今朝、7月20日「日経新聞」の一面に「A級戦犯靖国合祀ー昭和天皇が不快感」という文字が躍っていた。パッと見て、「このタイミングと内容は凄いな」と思った。ニュースのソースも明確であり、まず100%信頼できる内容であるし、恐らく今日中にマスコミはこの問題で、北朝鮮そっちのけの騒ぎになるだろうと・・・
 そこで、この問題について、少し考えておきたい。なお、靖国問題については、このブログで何回か取り上げ、私の基本的な視点を述べているので、そちらの方も参照していただきたい。

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【政治問題】小泉首相の靖国参拝ー再論
【憲法問題】小泉首相の靖国参拝を考える
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●まず、日経新聞のスクープの内容自体を簡単に整理しておきたい。
元宮内庁長官の富田朝彦氏(故人)の手帳に1988年4月28日付のメモが貼り付けてあった。その内容が凄い。

「私は、或る時に、A級が合祀されその上 松岡、白取(ママ)までもが 筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが 松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々と 松平は 平和に強い考があったと思うのに 親の心子知らずと思っている だから、私あれ以来 参拝していない それが私の心だ(原文のまま)」という内容である。

 日経新聞にこのメモの背景や、名前が出てくる人物の解説などが有るので、そちらも参照して欲しい(ここでは省略する)。

 昭和天皇が1978年のA級戦犯合祀(発覚したのは翌年の79年だが)以来、靖国神社を参拝していないことは、夙に知られているが、その根拠は今日まで2つの説があった。
 一つは、今回あきらかになったように、A級戦犯合祀を快く思ってなかったらというもので、もう一つは三木首相(当時)の参拝が公人か私人かを巡って政治的に紛糾したので自粛したという説である。

 『自治と分権』第21号(05年10月発行)の野中広務×渡辺治の対談でも、野中氏が、天皇の靖国参拝に関わって、合祀以来参拝をしていない事実を述べていた。私なども、歴史のほぼ「通説」にまでなっている合祀=不参拝論がどういった経過を持っているのか興味をもっていたが、野中氏の話は、恐らく政治家としてもっている「情報」によるものと理解をしていた。合祀を躊躇った筑波氏の話や、松平氏が「勝手」に合祀したことなどを述べていた。
 今回、こういった第1級の史料が出てきたことにより、靖国問題はある意味で新しい局面に入っていくと思われる。

●そこで、今回の史料発掘が今後の政治過程にどのような影響を与えるのか、簡単に考えてみたい。

 第一に、当然の話しであるが、遺族会などこれまで天皇の靖国参拝を希望していた勢力の動向である。当面は、狼狽と混乱であろうと思うが、今回の史料自体の意味を頭から否定することは困難であろう。否定をしても、遺族会内部のコンセンサスを得られないと思われる(これは、単なる予想であるが)。
 第二に、靖国神社の方であるが、『文藝春秋』8月号の上坂対談を読むと、前宮司は筑波氏の時から「合祀」の方向は決まっていたが、その時期が問題だったと述べている。つまり、松平元宮司の一存ではないという主張である。この辺の議論もかなり怪しくなって行く可能性が強い。色々な面で神社側と遺族会の不協和音も現在より遙かに強くなるだろう。
 第三に、これが眼目であるが、首相や天皇などの「公人」の靖国参拝に反対する声が強まると同時に、参拝できる靖国神社のあり方の「追求」(A級戦犯の分祀など)、靖国以外の公的追悼施設の建設、靖国神社の非宗教法人化と国家管理(実質的分祀と公的施設化)、などの方向を模索する動きが強まるだろう。

 以上は、「現象的」な今後への影響であるが、もし、昭和天皇が不快感をもったような状況が「克服」された場合、天皇が靖国参拝を再開する可能性もあるわけで、これも首相の参拝とはまた異なった政治的影響を与えるものになろう。本当のことを言えば、こんな話しで靖国問題は解決できるような「やわ」な問題ではない。勿論、A級戦犯合祀をやめる(分祀を含め)、或いは、参拝しない、更に参拝しても問題ない施設をつくるなどの「改善」(国立の戦争犠牲者追悼所の設立など)によって、中国など近隣諸国の批判はなくなる(軽減される)かもしれない。
 それは、靖国問題の政治的側面に一定の「区切」がついたことにはなろうが、宗教法人と国家の関係、或いは靖国の戦後処理の問題、国民の祖先神崇拝などとの関係も含め、戦死者をどう考えるのか、遡って、あの戦争をどう日本の歴史に確定するのかと言った問題は未解決に終わろう。むしろ、日本の国内で最も真剣に議論しなければならないことが、政治的に「回避」される危険性があると思われる。この点は、重要なことなので、強調しておきたい。

●さて、そこで、当面の政治的課題としては、8月15日の小泉首相の靖国参拝に、今回の問題がどういう影響を与えるのか、少し考えておきたい。8月15日の靖国参拝は、小泉首相の「公約」であるが、参拝は5回強行したものの、8月15日そのものに参拝したことはない。これを「最後ッ屁」(主観的には「有終の美」かもしれないが)とするかどうかという問題である。
 政治家でも、加藤紘一氏などは「可能性が強い」ことを述べているが、当日まで分からないだろうというのが一般的認識になっているようだ。

 さて、今回、昭和天皇の認識の一端が解明されたことが小泉首相にどのような影響を与えるのか、また、15日の参拝を強行した場合、その影響はどのようになるのか。国際世論や近隣諸国の対応は?と言ったことは正直言って予想がつかない。特に、小泉首相の「内心」については、知りたくもないし(笑い)、側近にもわからないだろう。
 野中氏が述べていたように、何しろ、小泉氏は首相になるまで靖国神社参拝を行っていなかったのであるし(辞めた後は行かないだろう)、本心では、自分のための参拝とは思っていないのだろうから。

 そこで、もう少し、小泉首相の靖国参拝を巡る最近の状況について述べておきたい。それは、靖国参拝批判が中国、韓国にとどまらず、特にアメリカの世論やマスコミ・議員との関係でハレーションを起こしつつあることに関わる。

  「立花隆のメディアソシオ-ポリティクス」に掲載されたものであるが、最近の日本共産党の小泉靖国参拝問題批判のスタンスと驚くほど似ている。つまり、小泉首相の上下両院合同本会議での演説がお流れになった理由が靖国問題なのだと言う。6月24日の「ヘラルド朝日」に寄稿されたポール・ジアラ元米国防総省日本部長の「首相参拝は米国にも損失」と題する論説は以下のような文章を含んでいたそうである。

***********************以下引用*********************
「それ以来(A級戦犯合祀のこと-行方)、靖国は、太平洋戦争の責任問題を忌避しようとする人々のシンボルになってしまった。靖国神社の中にある遊就館と呼ばれる戦争博物館には、第二次大戦での日本の立場がはっきり示されている。それは、あの戦争において、日本が政治的にも道義的にも正しかったという主張である。その展示によると、あの戦争はルーズベルト大統領がアメリカの戦略的利益を守るために陰謀と挑発によってひき起こしたもので、日本にとってそれはやむをえず引き込まれた自衛戦争だったということだ」

「アメリカではもっとましで、もっと正しい戦争の原因論が信じられており、このような愚劣な歴史の書き換えは、アメリカに対する直接的な挑戦と受けとめられている」
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●こういった認識が欧米でも強まっているならば、8月15日の参拝は、日本国内では予期しなかったハレーションを起こす可能性が高い。アメリカの日米戦争に関する認識や、原爆投下問題への認識などは、到底肯定できない内容を含んでいるが、アメリカのナショナリズム刺激の要素となることは明確であろう。

 今回の北朝鮮のミサイル実験に関する、G8や中国、ロシア、韓国などの動きを見ると、アメリカと中国の関係はかなり微妙である。日本が提出した決議案の採択の日程をずらして、中国に北朝鮮説得の時間を与えるなど、その役割への期待とも「踏み絵」とも両義的に解釈できる手法をとった。
 中国は北朝鮮の実験を事前に察知していなかったと言われ、アメリカや日本の衛星情報、イージス艦やコブラボールなどの情報に依存して、確認をしたらしい。こういうことからも、中国と北朝鮮の関係も微妙である。

 米中関係は、中国を潜在的な敵国(アメリカにミサイルを撃ち込む能力のある国)として日米同盟強化の路線を取っているし、また、中国と中東諸国や北朝鮮との関係なども含め、在外米軍の国際的な再編を行って来ている。
 同時に、市場としての中国やその影響は、日米にとっても限りなく大きいものがある。中国の市場への参入により、将来的にはその政治体制の「転覆」を展望しつつも、当面は市場のルールに沿って行動することを要望しているわけである。そのほか、中国の現体制をそもそもどう見るのか、という問題もあるが、ここで詳論することは避けたい(いずれ、ヒマな時に私の見方を述べてみたいが)が、少なくとも「社会主義」或いは「社会主義をめざす国」とは言えないと見ている。尤も、これは「社会主義」の定義にもよるのであり、中国が何をめざしているのか、内在的にも検討する必要があろう。中国的社会主義とか社会主義的法治国家論は、現時点で中国各地を回れば、かつての「プロレタリア独裁」という標語に事実上替わる「新しい理念」であることは分かる。

●そんなわけで、8月15日の小泉首相の靖国参拝は、日本の今後の政治状況にかなり大きな影響を与えるものと見てよい。特に、阿倍晋三氏は次期総裁の可能性が高く、今回の北朝鮮制裁決議問題でもアメリカとホットラインを敷いて陣頭指揮をして対応したと言われている(本日の『日経』)。
 この次期総裁候補の身のこなしにも、大きな影響を与えるだろう。彼は、現在、靖国にどう対応するか考慮中といわれ(事前に他人には話さないと言っているようであるが、特に遺族会をどうするかが問題とされている)、その「器」も試されることになる。

 私としては、靖国問題は他国がどういう対応を取るのかという以前に、日本の大きな政治・社会問題であると思っている。同時に、これはこれとして、中国や北朝鮮も含む、近隣諸国、東アジアの平和的な共存と共栄をどのように展望していくのか、重大な局面になっていると思う。
 そういう意味からも、今回の日経のスクープは、財界が小泉の靖国参拝に意見を述べたのと同じく、日経なりの意見の述べ方であったと思うのである。