<< 2007年08月

1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

 2007年03月16日(金)

読売「統一地方選・首長アンケート」(3月15日)を読む

●読売新聞(3月15日付け)が「『小泉改革で中央・地方に格差』…読売首長アンケート」という記事を掲載した。ネットに配信されたものはわずかであるが、まず引用をしておく。

************************以下引用***********************
 「4月の統一地方選を前に、全知事、市区町村長の計1882人(2月1日現在)を対象に読売新聞社が行った「全国自治体首長アンケート」で、全体の9割が「小泉改革」によって中央と地方の格差が広がったと感じていることがわかった。
 選挙の争点となる重要政策課題では、財政再建や地域経済の活性化が上位に挙げられるなど、厳しい財政、経済事情の中、やりくりに苦悩する首長の姿が浮かび上がった。
 アンケートは、インターネットの画面で回答する方法で、1月末~2月末に1718人から回答を得た。
 統一地方選で争点になると考える重要政策課題(複数回答)で、一番多かったのは、公的介護保険や医療、少子化対策などの「福祉政策」(64・8%)だったが、「地方財政の再建」(63・7%)、「雇用・景気対策など地域経済の活性化」(57・6%)がわずかな差で続いた。
 三位一体改革や規制緩和などの「小泉改革」で、格差が広がったかとの問いには、「そう思う」が54・8%で、「どちらかと言えばそう思う」と合わせると89・2%に上った。格差を感じる首長の割合は、人口規模が小さいほど高く、5000人未満の自治体では96・2%が格差の広がりを認めたが、50万人以上では75・9%にとどまった。
 また、地域経済の実感に対する質問では、「上向いている」との回答は21・2%。これに対し、「悪化している」が27・5%、「変わっていない」が50・7%を占め、冷え込んだ地方経済のてこ入れに腐心していることをうかがわせた。」
************************引用終わり**********************
 
Ⅰ)格差とはなにか。格差は拡大しているのか。

 さて、実際のアンケートに関する記事は2面ぶち抜きという大変に大きなものであるが、まず引用部分の内容について若干のコメントを行っておきたい。首長アンケートは、あくまで首長の印象といったものであるので、実際の自治体の姿とは「若干異なる」かも知れない。しかし、上記の内容は、恐らく「実態」をかなりの程度「反映」しているように思う。
 特に、三位一体改革や規制緩和などの「小泉改革」によって、地方間格差が広がったという認識を多くの首長が共有している点は、重要であろう。約9割の首長、小規模自治体に限っていえば96.2%であるから、殆どの首長が格差拡大を認識していることになる。

 この「格差」については、この1年~2年の間にすっかり「社会的」用語になってきた。所得格差、社会格差をはじめ、ワーキングプア、ヒルズ族など格差を象徴する流行語もかなり多くなった。
 ところが、この「格差」について、その実態や評価をどうみるのかということになると、意外に難しい問題になる。今回のアンケートは、あくまで「印象」であるから、何を指標にして格差が拡大したとみるのか、各首長によって、その把握内容は異なると思われる(それでも、なおかつ「格差拡大」を認識しているという「共通項」の存在は重視すべきであるが)。

 この「地方格差」については、自治体運営という視点からみれば、かなり真実に近いと思う。また、地域ごとの所得格差などをみれば、全体の格差が拡大していることを反映して、かなり実態に近いと思う。最近では、毎日新聞(3月6日付け)にこの問題が掲載されていた。
 「内閣府が6日公表した04年度の県民経済計算によると、都道府県民1人当たりの県民所得は、全国平均では297万8000円(前年度比0.3%増)で2年連続で前年度を上回ったものの、地域間の格差を示す「変動係数」は3年連続で上昇し、15.57%となった。01年4月に誕生した小泉政権下で、地域格差が拡大していたことを示している。・・・」と。

 また、同紙2月4日付けでは、「99~04年の全国の市区町村の納税者1人あたりの平均所得に関し、格差の度合いを示す『ジニ係数』を年ごとに割り出したところ、02年を境に上昇したことが3日分かった。ジニ係数は毎日新聞が東京大大学院の神野直彦教授(財政学)の協力を得て割り出した。平均所得の最高値と最低値の差は3・40倍から4・49倍に拡大、小泉純一郎前政権の間に地域間格差が開いたことを示した。神野教授は『感覚的に論じられてきたものを初めて定量的に示せた』と指摘しており、地域間格差は4月の統一地方選の主要争点になりそうだ。」と指摘をしていた。読売のアンケートでも、こういった現状が追認されたと言えるかもしれない。

 ただ、上記の「格差」という認識で、誤解しないようにすべきことは、都市部の「住民」の生活が地方の「住民」の生活より、「豊である」「豊かになった」というものとは異なるという点である。「平均所得の上位はほとんどが大都市部。04年には東京23特別区のうち9区が上位20自治体に入った。これに対し、下位は軒並み高齢化の著しい町村部。最高値と最低値はそれぞれ、99年は東京都港区の751万円、秋田県東成瀬村の221万円で、04年が港区の947万円、北海道上砂川町の211万円だった。」という記事からも理解できるように、あくまで「格差」は「平均値」の拡大によって裏づけられた数字である。
 港区のように、六本木ヒルズをはじめ高額所得者が集中し、ガイジンなども多い地域でも、高齢者が豊かな老後を送っているかどうかという事などを調査すれば、それが「妄想」であることが理解できるだろう(この点は、『自治と分権』25号の対談:唐鎌直義×河合克義「いま、国民生活・自治体はどうなっているか」 などを読んで頂ければ幸いである)。

 また、都市部と農村部(地方)の物価をはじめとする「生活費」(生活スタイルの差からくる出費)の「格差」も大きい。いわゆる「東京一人勝ち論」などは、こういった大都市部の住民の生活苦などの視点が「スッポリ」と抜けた議論であり、都市と農村の「対立」を煽る議論に利用される恐れすらあるわけである。
 というわけで、ジニ計数などに基づく「格差論」には注意が必要である。このことを前提にすれば、神野教授等の作業は正しいと思われるし、政策的対応が必要な事も明確だろう。

Ⅱ)国と自治体の財政関係ー自治体財政の逼迫

 多くの首長は、自治体経営が一層困難に陥りつつあることを、正確に認識しているようである。特に、小規模自治体の首長にあっては、深刻である。読売のアンケートで「なるほど」と思ったのは、日本全体で、財政状況「厳しい」と回答した首長の割合が、「90%以上」「80%~90%未満」・・・「60%未満」という分類で、日本地図が色分けされているのであるが、最後の60%未満は東京だけである。そして、その一つ上のランク「60%以上70%未満」は神奈川から愛知までの「太平洋ベルト」地帯のみ。そして、それに新潟や岐阜、北関東などが続くという「色分け」になっている。地域経済の状態について「悪化」という認識は、北海道が一番高く60%を超えている。これに四国や九州が続く。
 常識と見事に「一致」しているのではないだろうか。これは、ある意味で小泉構造改革の「たまもの」である点が重要である。つまり地域経済の状態→自治体の財政状態→自治体経営の困難化という「三位一体」現象が強化されたということであろう。従前は、この「→」(矢印)は地方交付税や補助金の配布によって、地域間の所得再分配によって、ある程度「緩和」されてきた面がある。
 しかし、小泉構造改革は3兆円の税源移譲に伴って、約6兆円の地方の財源の「召し上げ」を行ったのである(多少、景気回復による交付税額の低下という「客観的」な側面が伴うが)。この点については、拙稿地方財政の変容―構造改革の帰結と問題点①を参照して欲しい。

 案外、国は「ちゃっかり」と地方を犠牲にして、自分の歳出を確保しているのである(と言っても、社会保障関係は目の敵であったが)。

 首長アンケートを見ると「地方分権を進める上で不可欠な条件」という質問があり、トップは「税財源の充実」86%、続いて「国と地方の役割分担」「地方への権限の移譲」となっている。なんのことはない、役割分担や権限の移譲などを通じても、地方への財政圧迫は貫徹されるから、分権が進めば進むほど、地方の財政、台所は苦しくなるという「だけ」の話になっている。これが「地方分権」の真の姿ならば、地方分権などは「いらない」ということになるだろう。なおかつ「分権推進」というなら、この大前提を覆す必要があるわけだ。その前提なしに、「分権」だけを主張することは、まさに「自虐的」発想であろう。
 ところがこの「自虐的」発想をし、推進している勢力もある。全国知事会などがそれに該当する(今回は、深く触れないが)。

 読売の今回のアンケートについて、北川正恭氏がコメントを寄せている。「自立促進がポイント」であると。「自立」した瞬間に「死」に到る自治体が多い中で、結構なコメントである。いい加減に「自立」の大安売りはやめた方が良い。地方交付税や国庫支出金を貰っているからと言って「自立」していないわけではない。所得がない障害者から負担金を取り、「支援」と言い、「自立」を迫る国であるから、「自立」というタームは余程、時の支配層にとって都合のよいものなのだろう。

Ⅲ)その他、気づいたこと。

 読売アンケートは大変に面白かった。統一地方選挙の争点では「福祉」「財政再建」(実は「福祉」とバッティングしてしまうのであるが)「地域の活性化」(財政再建とバッティング)の次に「教育」が高く、45%となっている。これは、国が教育への介入を強めようとするなど(ある知事は「文科省の焼け太りだ」と吐き捨てるように述べた-その通りだろう)、地方の警戒心が強まっていること。また、小泉構造改革の犠牲者が子どもであったことが、客観的に(主観的には違うが)示されている点に興味を持つ。

 談合については、悲観的である。公務員制度改革については「実力主義の貫徹」と。マスコミの影響の強さを示すアンケート結果になっている。道州制について、「賛成」19.5%、「どちらかといえば賛成」28.6%と双方で48%になっている状況は、ちょっと「恐ろしい」ものを感じる。それだけ、現在の地方自治の実態が閉塞しているということだろう。具体的な「広域行政」のあり方への提起が求められているように思う。その他にもおもしろい論点が沢山あるが、今回はこの辺で。

土佐清水市の漁港=市場